1.12.2023

[film] Remorques (1941) +

暮れから年初にかけて、毎年のベストを決める時に困るのが、記録にはあるけどどんな映画だったかよく思いだせないやつがあることで、そういう印象に残っていないのは無視したってよいのでは、というのもあるのだが、他方でふつうに物忘れがひどくなっていることも確かで、昔の映画を見ても始まってしばらくして、これ前に見たやつじゃん、となるケースが余りに多くて嫌になっているので、短くても見たやつはできるだけなんか書いておくことにしよう、と思ったの。

Remorques (1941)

12月27日、シネマヴェーラの特集『ヌーヴェル・ヴァーグ前夜』で見ました。

邦題は『曳き舟』 - 日本では劇場公開されていないの?
さっき(12日)のシネマヴェーラでの蓮實おじいさんのトークにもあったように、これはとてつもない傑作なんだからー。
英語題は”Stormy Waters”。監督はJean Grémillon。原作はRoger Vercelの小説で、脚色/ダイアログはJacques Prévert。

Jean Gabinがブルターニュの荒海で遭難した船を救助する曳き舟の船長をしていて、仲間の結婚式だというのに大嵐で救助の依頼が入って海に出ていかなければならなくて、彼の妻のMadeleine Renaud は夫のことが心配で海に出てほしくなくて体が弱っていて、でも彼は仕事と使命に燃えているのでお構いなしに出ていってしまう。

救助は成功したら報酬が出る方式で、その代金を払いたくない救助される側の船長はぎりぎりのところで綱をぶち切ってずるをして、救助された船員にはそんな卑怯な船長の夫から逃れようとしているMichèle Morganがいて、陸にあがった擦り切れた縄のように疲れたふたりは接近していくのだが..

嵐と大雨と救助現場の荒れっぷりも含めて全てが殺伐としてぐしゃぐしゃにしょっぱいのがこちらに向かって吹いてくるかんじで、その荒天が二組の夫婦関係にもどす黒くゴーストのように被さって救いがなくて真っ暗なのだが、最後はもうぜんぶぶっとばしちまえ、ぐらいのやけくそな嵐が問答無用にすばらしく、目を開けられない状態のままー。

Jean GabinとMichèle Morganのふたりが浜辺を歩いていくシーンの向こうに荷馬車がいて、なんかたまんなかった。

Agnès Vardaの漁師と妻たちのドキュメンタリーを思い出した。


Le crime de Monsieur Lange (1936)

12月29日にシネマヴェーラで見ました。35mm上映だった。邦題は『ランジュ氏の犯罪』。

作・監督はJean Renoir、脚色はJacques Prévert。
ベルギー国境付近の飲み屋/宿屋に男女が逃げてきて、警察もやってきて、いま来たばかりの男女を捜しているのが見え見えだったのだが、女性の方がこれからあたしがする話を聞いても警察に突き出す? やれるもんならどうぞ、って彼らのことを語り始める。

M. Lange (René Lefèvre)は小さな個人経営の雑誌社の社員として働きながら売れないコミックを描いたりしているのだが、そこの社長のBatala (Jules Berry)はセクハラ・パワハラ・詐欺まみれの最低な野郎で、そいつが列車事故で亡くなったので社員は会社をどうにか立て直すべく組合を作ってがんばって、Langeのカウボーイを描いたコミックもあたって、Batalaの愛人だったValentine (Florelle)とも近くなるのだが死んだと思っていたBatalaが突然戻ってきてむちゃくちゃをやろうとしているのを見たLangeは..

Batalaがすごく嫌なやつなのでざまーみろ、って思う反面、LangeもValentineもぜんぜんヒーローには見えない、更に堕ちていく予感たっぷりノワールの、無頼の暗さを背負って国境に向かっていくラストがすごい。彼らがあのまま”Natural Born Killers” (1994)みたいになったって驚かない。

Jean Renoir、おそるべしー、って。


Pleins feux sur l'assassin (1961)

同じく12月29日、↑のに続けて。邦題は『殺人者にスポットライト』、英語題は”Spotlight on a Murderer”。監督はGeorges Franju。劇中にGeorges Brassensの歌が流れる。

冒頭、お城のようなお屋敷で富豪の伯爵が苦しみながら床から身を起こして、鏡の裏の隠し扉のようなところの奥に自分の身をおさめて薬を飲んで扉を閉める。

伯爵がいなくなった知らせを受けた家族親族が館にやってきて、彼がどこに消えたのかはわからないがあの容態であれば間違いなくどこかで死んでる、でも遺体が見つからない場合は向こう5年間、遺産の相続は棚上げ、その間の税金等領地の維持費は支払うべし、って言われて、それならお屋敷観光ツアーでもやって賄うか、とアトラクション機材一式を持ち込んで始めるのだが、反対側で相続人たちがひとりまたひとりと消されていって..

これを自分も遺族のひとりである医学生のJean-Louis TrintignantとGFの女学生がふうむ、ってつんけん(内面はぜったい楽しみながら)謎解きをしていくの。

ミステリーの迷宮と推理、というよりは冒頭の困らせてやれ自殺から、転がって広がってどうなっちゃうんだろ? っていうどたばたの顛末を追っかけて楽しんでいくドラマ(Georges Franjuは気に入らなかったらしい)で、最近なんかそっくりなのを見たかも … そうだ”Glass Onion” だ。

最後に伯爵のじじいが実は生きてぜんぶ見ていた、にしたらおもしろかったのにな。それか呪いの館/チェンバーのどろぐしゃ惨劇ホラーにしてもよかった。

いったん切りますー

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