1.27.2023

[film] Queen of Diamonds (1991)

1月14日、土曜日の晩、国立映画アーカイブのAFA特集で見ました。76分。
Nina Menkesさんが作、監督、撮影、編集(はTinka Menkesと共同)をほぼひとりでやっている。ドキュメンタリーではなく、かといってフィクションの明確なストーリーラインがあるわけでもない。

毒々しい赤のマニキュアの女性が、横たわる老人の世話をしている – ずっとほぼ突っ立っていて、彼女が一度だけFirdaus(アラビア語で”paradise”の意味)と呼ばれる、監督の妹で「主人公」 - というより画面に現れている時間が最も多いひと - Tinka Menkes。

なんの説明もなく – 説明する必要があろうか、という固定されて距離を置いた画面上に、彼女の日々の仕事というのか活動というのかが流れていく。モニタリングする監視カメラの映像のようでもあるが、それにしては撮られている彼女の態度からは無防備などうでもいい投げやり感が漂ってくる。言葉による説明も糾弾もなく、撮りたけりゃ撮れ、と。

どのシークエンスもそれなりの長い時間を使っていて、おそらく一番長いパートがFirdausがカード賭博のディーリングをする台のところに立って、客との間でカードを受け渡していくところ。よく映画で描かれるラスベガスの賭場の熱気と活気も愛想笑いもなく、いろんな欲望と妄想の時間がきれいに順番通り機械的に処理されていく、その機械のパーツとして、流れているチープなゲーム音の構成要素として彼女はそこにいるだけ。期待されているのも、求めるものもそれだけ。そうやって大量のトランプカードと共に潰されていく日々と時間と。 ダイヤのクイーン? それがどうした?

彼女のアパートの隣の部屋からは男性が女性を虐待する音や声がいつも響いていて、うんざりするのだが、そんなでも終盤にこのカップルは結婚式を挙げて、Firdausも隣人として招かれる。幾重ものヴェールと安っぽいお飾りとお化粧、それでも見えてしまう花嫁への虐待の痕、それでも宴を祝って笑っている人びと。

唐突に砂漠のなかで一本の椰子の木がぼうぼうに燃えているシーン。ここでも彼女は背を向けて立っている。こんな砂漠でなにができるというのか、勝手に燃えてろ、というその絵の強く残ること。

最後に彼女は誰かの車に乗って(乗せてもらって)砂漠から立ち去る。ここにも理由なんてない。

例えば、“The Florida Project” (2017)にいたあの子供たちが大きくなると、こんなふうになったりするのではないか。

フェミニズムもミソジニーもあるけど、80年代の虚飾を通過してグランジがぶち壊そうとした原風景がここにはある。2019年にリストアされたリアルな色味がすばらしいったら。


Scarecrow in a Garden of Cucumbers (1972)

1月17日、火曜日の晩に見ました。『きゅうり畑のかかし』 - たぶん卑猥な意味がある。
監督はRobert J. Kaplan、脚本はSandra Scoppettone。

ウォーホルのFactoryに出入りしてて”Trash” (1970)などにも出演していたトランスアイコン- Holly Woodlawn演じるEveが田舎からNYに出てきて巻きこまれる都会のあれこれを『オズの魔法使い』よろしく冒険ミュージカルふうにまとめてみた、楽しい1本。

Lou Reedの"Walk on the Wild Side" (1972)の冒頭 - ”Holly came from Miami, F-L-A
Hitchhiked her way across the USA” - にある”Holly”っていうのは彼女-Holly Woodlawnのことで、この映画でもハミングしながら通りを軽快に突っ切っていって後はしらない、って。

冒頭、家を出ていくEveを両親が散々心配して情感たっぷりに送り出してカメラが引いてみるとふたりとも下半身裸だったり、すべてがこの調子の一発ギャグ(狙い)ぽい珍奇なドタバタと共に転がっていく。

NYに到着してからは魔窟のようなチェルシーホテルに放り込まれ、こんなところじゃないちゃんとした住処(と仕事)を見つけようとするものの紹介されたり当たる人、行くところどいつもこいつも変態とか罠みたいのばっかしで、そういうのの輪がじんわり広がっていって果てがない。

当時のNYのアンダーグラウンドなんてこんなものだったのかも知れない、当時は or 関係者の間ではおもしろかったのかもしれない、にしても個々のエピソードはそんなにおもしろいものとも思えなくて、この辺は残念というほかない。コメディでもホラーでもどこかしら風化してしまうものってあるかー、と。

写真家でJohn Cassavetes作品のプロデューサーだったSam Shaw (1912-1999)がSpecial Still Photographer - 最後の方に出てくる素敵な写真たち - として関わっていて、アドバイスもしていたとか、まだ無名のBette Midlerが歌っていたり、Lily Tomlinのデビュー作(声だけ)だったり、NYのインディペンデントフィルムの走りとして、その熱とか風に触れる、くらいでよいのかもしれない。

ここから10年過ぎると、NYのイメージも“Variety” (1983)でBette Gordon/Kathy Ackerが描いたようによりダークにひりひりしてきて、やはりこっちの方かなー、って。

そういえば、ここのEve = Hollyも車で走り去っていく。 走り去れるのっていいなー。

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