1.06.2023

[film] Married to the Mob (1988)

12月29日の夕方、下高井戸シネマでの特集「70-80年代“ほぼ“アメリカ映画傑作選」ていうので見ました。

この特集では4本見たのだが、結構売り切れが出ていた。暮れでみんな暇だったのかもしれないけど、こういう従来のミニシアター系にもB/C級のジャンル区分にも引っかからないような小さめの作品てすごーくいっぱいあるので、歓迎したい。イギリス映画ならもっといっぱいあるよ。

邦題は『愛されちゃって、マフィア』。公開時は見ていなくて(邦題がイヤで)。監督はJonathan Demme。撮影はTak Fujimoto、音楽はDavid Byrne。

冒頭、Long Island鉄道の通勤の車内で鮮やかに暗殺仕事をこなすギャングの“Cucumber” Frank De Marco (Alec Baldwin)がいて、それをFBI捜査官のMike (Matthew Modine)のチームが追っかけている。そのなかでFrankのボスのTony “The Tiger” Russo (Dean Stockwell)を中心とした「ファミリー」の結束が示されるのだが、FrankはTonyの情婦をとったとらないでTonyにあっさり殺されて、いきなり未亡人となったTonyの妻Angela De Marco (Michelle Pfeiffer)と7歳の息子のJoey (Anthony J. Nici)は、もともとFrankとは別れたかったしギャングの妻たちとの近所付き合いにもうんざりしていたので母子でマンハッタンのLower Eastのぼろアパートに引っ越して、ヘアサロンで働きながら新たな人生に踏みだそうとする。

のだが、Frank殺しの容疑者としてAngelaをマークしていたMikeが同じアパートの住人としてAngelaに近づいて彼女とデートすることになったところ簡単に恋におちてしまい、そこにAngelaを自分のものにしようと内緒にしていた棲み処を簡単に探してあててきたTony一味が割りこんできて..

これ、Angelaからすれば過去のあれこれすべてを吹っ切って新しいスタートを切ろうとするスクリューボールの逆を行こうとしていて、Mikeからすれば思いもしていなかったギャングの世界に別の角度から足を踏み入れてしまうスクリューボールになってて、どちらにしてもやくざな夫との過去を全力で吹っ切ろうとする魅力的なAngelaを雑多な男たちが追っかけていくコメディで、終わりの方に向かって輝きを増していくMichelle Pfeifferのすばらしさについてはまったく異議なし。

同じLower Eastを舞台にした女性を描いたコメディだと、やはり”Desperately Seeking Susan” (1985) - 『マドンナのスーザンを探して』を思い起こして、これも金持ちだけど日々の生活にうんざりしていたRosanna Arquetteが別の人生に踏みだそうとしたらあれこれ巻きこまれて大変なことになる。ここで主人公を引っ掻き回す役だったMadonnaにあたるのは、最後に怒りをこめてぶちあがってくるTonyの妻のMercedes Ruehl、になるのかしら。

ひとつあるとしたら、Michelle Pfeifferがあんなに素敵なのだからぱりっとした女性映画として作ってくれたらよかったのにな。(”Desperately Seeking Susan”は女性映画なの)クライム・コメディにしてはちょっと弱いしなー。

音楽はNew Orderの”Bizarre Love Triangle”が跳ね回ってくれてたまんない。ピエロ役で一瞬出てくるChris Isaakのとかいろいろ。Jonathan Demmeの映画だなあー、という顔ぶれ。

エンドロールでは、本編で使われなかった端切れのようなクリップが沢山縒り合わされているのだが、そういうのがぶちまけられていてとってもおもしろいのが ↓


Melvin and Howard (1980)

12月27日の夕方、下高井戸シネマの同じ特集で見ました。 これもJonathan Demme作品で、Melvin Dummarの身に起こった実話に基づいていて、Bo Goldmanの脚本とMary Steenburgenの助演はオスカーを獲って、1980年のNYFFのオープニングを飾っている。 撮影はTak Fujimoto。ポスター上では”Melvin (and Howard)”と表記されていて、邦題は『メルビンとハワード』。

冒頭、中年男が絶叫しながらバイクで砂漠を疾走していて、逃げているわけでも追っているわけでもなさそうで、勝手に窪みにはまってぶっ飛ばされて倒れているところをトラックを運転していたMelvin Dummar (Paul Le Mat)が拾って自分の車に乗せてあげて、病院に行くのを拒否した男は、Melvinの作ったクリスマスソングと男のリクエストによる"Bye Bye Blackbird"を一緒に歌ったりして、帰り際に自分はHoward Hughes (Jason Robards)だ、と言うのだが、はいはい達者でなー、って別れる。

ここから先はほぼMelvinのお話となって、最初の妻のLynda (Mary Steenburgen)との、それが壊れた後、次の妻のBonnie (Pamela Reed)との、一応夢とか憧れへと向かう生活への道は追ってみるけど、うまくいかなくてもへっちゃらのでこぼこした日々を送って、それで十分だったのに、Howard Hughesが遺した遺産の分配を記したメモにMelvinの名前があって大騒ぎになり、偽造とか詐欺ではないかとかの裁判が始まって…

アメリカの中流よりやや下の「ふつー」の人々の世界をアンサンブルキャストが持ちあげる、というより転がっていく中途半端なエピソードが地面に殴り書きをして、その痕跡を辿っていくような。アルトマンほどわかりやすい、地に足のついた纏まりを見せてはいなくて、なにもかもがlowでrawでお呼びでない、それゆえのおもしろさと力強さが滲んでいて、Paul Thomas Andersonが好きだというのはよくわかる。彼の“Hard Eight” (1996)なんてとっても近くないか?

ここから例えば”The Silence of the Lambs” (1991)や”Philadelphia” (1993)に行けてしまった器用さがなんというか勿体なかった気がする。どっちも見てないけど..

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。