10.06.2022

[theatre] The Glass Menagerie

9月30日の昼、新国立劇場で見ました。Tennessee Williamsの最初にヒットした劇『ガラスの動物園』(1944)。

これの舞台だと、2005年にBroadwayのEthel Barrymore TheatreでAmanda - Jessica Lange、Laura - Sarah Paulson、Tom - Christian Slater、Jim - Josh Lucas というキャストのを見ていて、これもすばらしかった。

今回のは、Internationaal Theater Amsterdam/Théâtre de l'Odéonで上演されてきたIvo van Hove演出、Jan Versweyveld舞台デザイン、Isabelle Huppert主演による舞台劇。

ロンドンでは、2年くらい前にBarbicanで上演される予定だったのの、ものすごくよい席のチケット – Isabelle様のトーク付き - が取れていたのに、コロナ禍でたしか2回延期されて、泣きながら諦めて帰国したのが漸く来るって。いろいろつのるものもあり、こんなの当然会社やすんで行く。

始めにTom Wingfield (Antoine Reinartz)が舞台の縁、客席の前のほうに歩いてきて、客の手を借りて棒に紐とスカーフをぐるぐる絡ませたのを、えいっ、って一瞬で解いてみせる。こんがらかった糸も布もすらりと。すべてはマジックのように。(バナナブレッドのプディング、か..)

1930年代のセントルイスの下町、うっすら光っているようにも見える茶色-黄金色の壁に囲われた半地下のような穴倉のような住居にAmanda (Isabelle Huppert)と娘のLaura (Justine Bachelet)がいて、そこにTomが戻ってきて、その会話を通してこの家族が紹介されていく。Lauraははっきりそうは見えないけど足が不自由で、それを気にして学校にも行かなくなっていて、家の隅に転がって蹲り、本を読んだり音楽を聴いたり、壁に埋め込まれた戸棚の奥に自分だけのガラスの動物たちが暮らす動物園を隠している。

Amandaはそんな娘の日々のことをすごく心配してあれこれかまってしまうのだが、彼女もまた追憶のなか - 華やかで楽しかった過去の記憶の向こう側に生きている。そんな彼女たちを避けるかのようにあまり家に近寄ってこない語り部のTomは、配送会社で仕事をしながら詩を諳んじたり - 「シェイクスピア」って呼ばれる - ここからいつか出ていくことを夢見つつ、なかなか進めなくて燻っている。

Tomの高校の頃の友人で同じ配送会社に勤める – Tomより少しだけ収入はよい - アイリッシュのJim (Cyril Gueï)を家に呼んだから来るよ、と聞いたAmandaは(Lauraによい話だと思って)狂喜して、でもLauraにとっては卒業アルバムで見たりしていた憧れの人でもあったのでパニックでぐんにゃり転がってしまい、Amandaはフリルの、Lauraはややぴっちりめの衣装(by An D'Huys)でおめかしして、やってきたJimは気さくでLauraと高校の頃の思い出話をして盛りあがって、Amandaとも彼女の昔話とか料理で盛りあがって、Lauraは自分のガラスの動物園を見せてあげたり、踊ろうよ! ってArcade Fire “Neighborhood #1”に合わせてダンスをする – すばらしい高揚と解放 - のだが、そんなパーフェクトなJimには婚約者がいることがあっさりわかってしまい …

お話しの向かう先やそにに待っているであろう悲痛なトーン - ユニコーンの角は折れてただの馬になる – については十分に予測がつくのだが、それでも落ちぶれた敗者のかわいそうなドラマ、になることは断固拒否して、マジックではない、ガラスの動物園だっていい、そこにある生を抱きしめてとにかく生きようとする。同情なんていらない。

Tennessee Williamsどまんなかのエモまるだしの登場人物たちをIvo van Hoveがものすごくシンプルに清らかに造形して演出していて、彼が権力や欲望や悪徳を扱うドラマに見られるマシーン・歯車・筒抜け・ミラー、などの大仰な仕掛けから遠く離れた舞台セットも色味とか穴倉のどん詰まり感がよくて、どん詰まりなのに爽やかなかんじすら漂って、これが「愛」というものだったりするのか、とか。

そして、どこか壊れていて半分夢の世界に足を漬けてぺらぺらすごいスピードで喋って、おもしろい身振り手振りで相手の周りを飛び回って痺れさせるIsabelle Huppertの軽妙さと怖さの紙一重な演技のすばらしさ。どこかにいそうで、でも絶対いない気もする、でも彼女は間違いなくそこに生きている。そんなふうに脚や肘をつっぱって立つその姿。改めてライブで見れてよかった。

音楽だと遠く彼方で鳴っているものの他では、ダンスシーンでかかったArcade Fireのと、Barbaraの”L' aigle noir”が希望と絶望の狭間をブルースのように流れていく。

終演後のトーク - Ivo van HoveさんとJan Versweyveldさん – は時間が短すぎて、そこに通訳が入るので、ものすごく浅いものにならざるを得なかった – のはしょうがないのかー。


New York Film Festivalは佳境で、London Film Festivalも始まった。あーあーあー、しかない。なんだこの天気。

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