10.28.2022

[film] Avec amour et acharnement (2022)

10月21日、金曜日の夕方、ユーロスペースの「第四回映画批評月間」で見ました。
邦題は『愛と激しさをもって』、英語題は”Both Sides of the Blade”(最後に流れるTindersticksの同名曲から取られたそう。かっこいい)。

Claire Denisの新作で、共同脚本のChristine Angot – “Let the Sunshine In” (2017)でもDenisと共同 - の小説”Un tournant de la vie” (2018)が原作で、元のタイトルは”Fire”と呼ばれていたそう。撮影はEric Gautier、音楽はTindersticksで、ここに主演のJuliette Binocheが加わると王道のClaire Denisチューン、というかんじになる。

冒頭、メインビジュアルにもなっている絵 - 海の上でSara (Juliette Binoche)とJean (Vincent Lindon)のふたりが気持ちよさそうに浮かんで漂ってキスしたりしている – “Fire”なのに”Water”で始まる – のだが、この時点ではっきりと「愛」だけではない何かも漂っている – つまり海から出たその先には.. ということを思わせるぎりぎりの至福感がどこか切ない。

愛に満ちた休暇から都会に戻ってきてふたりのアパートで普段の暮らしを始めるなかで、Saraはラジオ番組でパーソナリティ(戦争や人権問題等を扱うジャーナリスティックな方面の)をやっていること、Jeanは職安で仕事を探しながら、かつての仕事仲間だったFrançois (Grégoire Colin)から再び声を掛けられて、でもJeanはその前職の始末をひっかぶって刑務所に入っていたこと、SaraとFrançoisは恋人同士だったことが – JeanがFrançoisからの電話を受けるたびの、出勤途中にFrançoisの姿を見たときのSaraの表情と揺れ具合でわかる。

もうひとつ、Jeanには前妻との間に17歳の息子Marcus (Issa Perica)がいて、Jeanの母Nelly (Bulle Ogier)と二人で暮らしていて、こちらも電話で連絡を取り合っているのだがNellyのカードが勝手に使われていたりMarcusが将来の進路も含めて不安定でふらふらしていること、Nellyからは孫と一緒に暮していくことへの不安を伝えられていて、こちらもなんとかしなければ、と気にかかる。

やがてJeanとFrançoisの新会社設立の話が動きだし、JeanがFrançoisからの電話を取ったり、Françoisに頻繁に会いにいくようになる度にSaraははっきりと表情のトーンを変えてそわそわするようになる。 JeanはもちろんSaraとFrançoisの過去も知っているのだが、もう自分と一緒に暮しているのでそこまでは、と軽く思ってパーティに来てFrançoisと会えば、と誘ってみたりする。こうしてFrançoisと再会してしまったSaraは…

満ち足りていたふたりの関係から始まって、そこに入り込んできた過去の – Saraにとっては恋愛の、Jeanにとっては仕事の、傷とか瘡蓋のような男 - François。彼はふたりのどちらに対しても過去からのギャップなんてまるでなかったかのように振る舞って近寄ってきて、Jeanの仕事の方は仕方ないにしても、Saraの方には相当大きな波、まるで毒とか麻酔のように襲いかかってきて、というありきたりの中年の三角関係をアパートの中と外 - 外ではマスクをしている人が多い – を出たり入ったりしながら追っていって、最後にそれぞれが溢れかえるアパートでのシーンがものすごい。

ホラーすれすれの距離感と怖さで、アパートから突き落とす、アパートから落っこちる、台所の鍋で包丁でグラスで、握りしめたスマホで、アップの切り返しがめくられるごとに、どんなことが起こるのかどっちがどうなるのか、目を離せなくて、この状態があと10分続いていたら心臓が潰れていたかも。

Juliette Binocheの宇宙空間にいたってなにひとつブレずにつーんと感情を漲らせてそこに立ってキスしてむき出しになる強さと、Vincent Lindonの力強くて頼もしそうだけど、よく目をみるとどこか遠くのなにかに拠り所を求めているような目つきの覚束なさが垣間見える不安定さ(→怖い)の衝突。もちろん勝ち負けなんてないし、勝ち負けになる話ではなくて、両方に付いている刃はどちらも鋭く、自分と相手の双方に向けられたまま、どちらの手にあって、どう使われようとしているのか。

あの、あんまりのラストは賛否かもだけど、あれでよいと思うの。

唯一あるとしたら、SaraとJeanのボンドがどのくらいの強さを保つものなのか、最初の海のシーンだけで充分に説明しきれていないように(後から思えば)感じてしまうことだろうか。メロドラマとして見るならそこがちょっと弱いかも。女性映画として見れば、どうか?

Claire Denisさんは、今年もう1本、Denis Johnson原作の“Stars at Noon”をA24からリリースしていて、そちらの方も早く見たいー。


しかしなんで、同じ週末にArt Book Fairと古本まつりと映画祭を固めてくる? 文系なんてこんなもんでいいと思ってるだろ東京都?

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。