8.29.2021

[film] Beware, My Lovely (1952)

8月23日、月曜日の夕方、シネマヴェーラの「恐ろしい映画」特集で見ました。

新作だけじゃなくてクラシックももちろん見たいのに今回のこの特集にあまり行っていない理由は、「恐ろしい」から、でただでさえこの夏はじゅうぶんしんでるのにそこでわざわざ恐ろしいものを見て怖がりたくないし。でもこれはIda Lupinoが出ているので。

邦題は『優しき殺人者』。元はMel Dinelli原作の短編をDinelli自身が舞台劇 – “The Man”に脚色して1950年にブロードウェイで上演されている。その前に同原作はラジオドラマとしても放送されていて、その主演がFrank Sinatra & Agnes Moorehead (1945)とか、その後にはGene Kelly & Ethel Barrymore (1949)とか、なんかすごい。

Howard (Robert Ryan)が人の家の掃除仕事を終えて、声をかけても家には誰もいないので置いてある代金を受け取って、クローゼットの扉を開けたら女性の死体が(瞬きしてるけど)転がっていて ...  Howardはひとり動転して一目散にどこかに走り去っていく、という冒頭。

クリスマスが近いある日、閑静な住宅街にある自分の家で下宿屋をしているらしい未亡人のHelen (Ida Lupino)がいて、休暇で部屋を開けるおじさんの相手をする姿はとてもよいかんじの女性で、出ていくおじさんとすれ違いに依頼を受けていたHowardが入ってきて片付けの仕事を始める。最初はごく普通にあれやってこれやって、ってやっているのだが、なにかの質問なのか指示なのか、床にあたる光とか調度なのか、なにかをトリガーにHowardの態度が少し変わって、Helenに「自分のことを仕事できない奴だと思っているだろう?」のようなことを言い始める。その目に見えない気質なのか人格そのものなのか、会話のプロトコルを外れて勝手に変わっていく間合いとかトーンとかがわかるようでわかんないので絶妙にこわい。

Howardは自分はすぐやったことを忘れてしまうのだ、といい、その言葉通りに行動や気性に一貫性がなくて、自分は兵役検査で不合格になった - でも戦死したHelenの主人は立派な軍人だったのだろう、って彼の軍服に袖を通したり、そういう彼女にとって嫌な振る舞いあれこれが困惑からぐるぐる巻きの恐怖に変わっていく過程、それがはっきりとした暴力 - 殴る蹴るナイフに鈍器に – として表出するのならまだそれと戦う覚悟や底力も湧いてこようもんだが、Howardは、まずHelenを外に出さない、外と連絡を取らせない、自分の監視下に置こうとするのが第一で、ドアの鍵を取りあげて内側からロックしてしまう。

何度か外から電話が鳴ったりドアがノックされる機会もあるのだが無情にも不運にも潰されてしまう。近所の子供たちがクリスマスのパーティ券を売りに来たときはもうだめだろ、って思うのだがぎりぎりですれ違ってしまうやりとりとか、Helenの企てもことごとく潰されて、ついてないーかわいそうーしかないのだが、Helenが泣きながらも床に這いつくばってなんとか対峙していこうとすると少しづつなにかが変わってくる… ように見えるのも実は、くらいに救われない状態は気づいた時と同じような薄さ - 見ている方は思いっきり手に汗 - で平穏に戻ってしまう。 これはこれで恐ろしいことも確かだが。

前年の“On Dangerous Ground” (1951) - 『危険な場所で』- でも緊張の糸を紡いだIda LupinoとRobert Ryanはここでも見事なふたりで、内なる暴力を抱え込んだ暗い目のRobertと盲目状態に落とされてもがくIda、という図が絵になってしまうのって、運命的ななにかを感じてしまうくらい。


そういえば、ルイジアナの方にハリケーン・アイダが来ているって。このアイダもだし、バンドのアイダもあるし、どうかみんなご無事でありますように。
 

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