8.04.2021

[film] The Human Voice (2020)

7月24日、土曜日の晩、英国のMUBIで見ました。

監督Pedro Almodóvar - 新作が今年のNYFFのクロージングに選ばれた - 主演Tilda Swintonによる30分の短編で、2020年のLFFで公開されて翌年1月にシアター公開される予定だったのだがロックダウンにより見れないままになっていた作品。30分という短い作品なのでシアターではPedro AlmodóvarとTilda Swintonの対話を収めたフィルムもおまけで上映されるはずだったのだが、それは今回見ていない。

原作はJean Cocteauの戯曲”La Voix humaine” (1930)を”Freely”に翻案したもの、同原作からはプーランクが一幕のモノオペラにしている(1959年初演)。

タイトルやスタッフ・キャストの人名表示は工具や金具がぎろーんと並んで、Carcassの”Surgical Steel”のジャケットみたいなかんじ。

冒頭、赤いドレスを着たTildaさんが撮影用ステージのようなところにいて、別の衣装に着替えて、そういうモデルや女優のようなお仕事なのか、と思う。続いてペットの犬を連れて荒物屋に行ってナタを一本買い、家(?)に戻る。そこに並べてあるDVD – “Kill Bill” (2003)とか”Jackie” (2016)とか”Phantom Thread” (2017)とかDouglas Sirkの”All That Heaven Allows” (1955) – どれも男性監督による女性映画 - とか本 - フィッツジェラルド、カポーティ、リチャード・スターン、ルシア・ベルリン、アリス・マンロー等が映されて、どういう人かなんとなくわかるのと、クローゼットの大量の服とか室内で履いている靴とか、コスメ棚にはNatura Bisséとか自然系(高め)のがいっぱい並んでいたり、経済的に成功していて余裕があるひとであることもわかる。(あと、この家は冒頭に出てきた撮影用ステージの中に作られたセットであることも俯瞰ショットでわかる)

部屋の隅にはスーツケースがふたつ – これから旅立つのかどこかから到着したのか、ベッドの上には男性のスーツが広げてある。彼女は買ってきたナタでスーツをずたずたにして、錠剤(13錠)をがぶ飲みして横になる。やがて犬がぺろぺろして目が覚めて、iPhoneに着信が来ていることに気付いてううぅってなると、暫くしてかかってきた次のCallで彼との対話が始まる。

その内容については映画を見てほしいのだが、彼とは4年間一緒にいて、この3日間でこの場所に荷物を引き取りに来ると言っていたから待っていたのに来ないっていったいどういうことか? 犬はあなたのものだしどうするんだ、とかいうもので、電話の向こうの声は聞こえないので、向こうがどういうトーンとモードであるのかは最後までわからない。

コクトーの戯曲は1930年の時点で電話でのやりとりをテーマにしていて、対面でも手紙でもない、今であればビデオの対話もできるはずだがそれはせず、一方の声のやりとりだけで関係の途絶と別れが起こる瞬間を捕まえようとする。関係そのものがどうなる、ということよりもそうやって捕捉されながらも電話線の向こうで声の痕跡だけを残して消えてしまうあなた – そしてそれを受けとめる自分 - について描いているのではないか、と思った。

プーランクのオペラが悲劇で終わるのに対して、こっちはそうでもなくて、Tilda Swinton!としか言いようのないかっこよさと共に閉まるので見てほしい。音楽はAlberto Iglesiasによるクラシカルなやつだが、Bowieの”Low”のA面あたりがいちばんしっくりくると思った。

やはり、Covid-19での動けない、どこにも行けない、出会いも別れもままならぬ状態を背景にして作られたものなのだろうか。

そして2020年3月、英国のロックダウンが始まる直前まで(というかロックダウンによって中断された)BFIで行われていたTilda Swintonの回顧上映で毎日のようにシアターに来て自身のいろんな作品についていろんなことを語り、質問に答えてくれていた彼女のことを思い出すと改めて感謝の思いでいっぱいになる。 こういう見方をするのが正しいとは思えないが、あの時の彼女の颯爽としたイメージとこの映画のラストは繋がってしまう。

これから今年のカンヌで公開されたJoanna Hoggとの、Wes Andersonとの、Apichatpong Weerasethakulとの新作を見ていくのが本当に楽しみ。


それにしてもあれこれしんどい。史上最悪の8月になるのかも。

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