12.24.2018

[film] It’s a Wonderful Life (1946)

英国に来て2回目のクリスマスを迎えることができて、ロンドンでこの時期に流れる映画の方はどこでも昨年と同じようなクリスマス映画の特集があって、今年はいつものに加えて”Carol” (2015)とか”Elf” (2003) とかもあって嬉しいのだが、目玉はなんといっても”It’s a Wonderful Life”の4Kリストア版のリバイバルで、BFIでは予告も含めてがんがんかかってて、Prince Charles Cinemaでは35mm版と4Kを交互に流したりしているし、TVでも結構やっているので見ずに済ます方が難しいくらいに人生は素晴らしき哉、なの。

15日の土曜日の夕方、BFIで見ました。もう何回も見ていて、同じような家族向けクラシックであれば”Meet Me in St. Louis” (1944)のが好きだし、James Stewartだったらだんぜん”The Shop Around the Corner” (1940) 『桃色の店』 - の方だと思うし、そんなに激しく愛しているわけでもないのだが、なんか周期を置いて見たくなることがあって、なんとなく。

George Bailey (James Stewart)は幼い頃からいろんな人に出会って揉まれて特にひねくれたり悪くなったりすることもなく大きくなって、美しい妻Mary (Donna Reed)と子供たちにも恵まれ、町の人はみんな彼を知っているし父から継いだ金貸し業で大成功とは言わないまでもそこそこの幸せな家庭を築くことができたのだが、ちょっとした失敗で転がり落ちてお先真っ暗のやけくそになり、自分なんか生まれてこなければよかったんだ、って叫んだらそれを銀河のどっかの星雲で聞いていた天使ワナビーのおっさんが天使のハネ欲しさに、ではやってみやしょう、って彼を生まれなかったことにしてみたら、そこでGeorgeが見たものは... っていうSFふりかけ付きの人情ごった煮三段お重弁当、なの。

世の中のだれもがみんな幸せな顔して楽しそうにしているもんだから自分なんかいっそ... のどツボに陥りがちなこんな時期だからこそいやいやそんなことはないのできそこないの天使だろうがサンタだろうがちゃんとそんなあなたのことを気にかけているのだしあなたがいないことになった世界はあなたが見たことも想像したこともないような世界になってしまう - これは考えてみればあたりまえのことだけど - のですぞ、って。

そうはいってもGeorgeを地獄に陥れるのも救いあげるのも結局はお金なのよね、という、とってもプロテスタンティズムと資本主義の精神に貫かれた、世知辛さ紙一重紙風船、の一本で、その精神ときたら宇宙の果て星雲の鍋の底まで浸透しちゃっている。

Frank Capraはそういう欺瞞も残酷さもすべてわかった上でこのクリスマスツリーとケーキを飾りたてて、我々もそれをわかっていながらラストの家族の幸せな笑顔(+そのありよう)にじーんとしてしまって、その奇妙な光景を”It’ a Wonderful Life”なんて呼んでしまって、それでいいじゃん、とか思えてしまうのだから、素晴らしい人生なんて案外ちょろいもんじゃねえの、と言ってしまうことだってできやしないだろうか。

上映が終わるとみんな拍手して、誰かが”Merry Christmas!!”て声をあげると、みんなもそれに応えて、ああクリスマスがきたんだわ、って家路につきましたとさ。

もう1本、BFIのひとはこれをクリスマス映画だって言ってた”All That Heaven Allows” (1955)も12日の水曜日に見た。

これもBAMとかでは何度も見ているのだが、上映前のイントロでは、メロドラマのフォーミュラを極めれば極めるほど郊外の富裕層と田舎の自由な若者の間の醜悪でグロテスクな高慢と偏見が露呈してくる、ということをサークは極めて作為をもって描いていて、この点でものすごく政治的なドラマである、という指摘と、それはそうとして画面設計とか時計台とかすっごくおもしろいので楽しんでいってね、って。 うんうん。

最後に鹿さんが現れるとこでは、みんなでわあ、って拍手して、ここのとこは確かにクリスマスだよな、って変に納得した。

クリスマスの音楽は、夏前に家のCDプレイヤーがCDを読み込んでくれなくなってアナログしか聴けない状態になってしまったのだが、Arethaのクリスマスソング集は聴いて、ついにアナログで出たSufjanの”Songs for Christmas”の箱を買うべきか悩んでいるうちにクリスマスが来ちゃったし。

今年の1曲はなんといっても動画で見たSaoirse RonanとJimmy Fallonのデュオによる”Fairytale of New York”かな。
この曲、いまだに歌詞の不適切用語を巡ってあれこれ言われたりしているのね。それだけクラシックになってきたってことなのかしら。

22-23の週末は電車でパリに行った。オペラ座バレエの「椿姫」に痺れてオルセーのピカソとルノワールを再見して、あとは年末の買い出し、とか思ってたのだが、2日目の天候が最悪で目がまわってぜんぜん動けなくて、そういえばすでにThe Second Shelfの本屋で相当散財してしまったりしていたのでおとなしくすることにした。

これからそこで買った小さな本 - Daphne Du Maurierの”Happy Christmas”を読みます。

みなさまもよいクリスマスと年の瀬を!

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