12.05.2014

[film] Boyhood (2014)

今宵(12/5)はとってもすてきなお月さまがいらした。

30日の日曜日の午後、日比谷で見ました。

邦題はまじで最低である。冒瀆、と言っていいくらいよ。
「6才のボク」は語り手でもなければ、自分を「ボク」呼ばわりするわけでもなければ、周囲の大人がこいつのことを「ボク」と呼んでいるわけでもない。そして彼の「大人になるまで」が描かれているわけでもない。「ボク」とか「大人」といった幼稚な呼び名や区分から遠く離れたところで彼と家族の傍を流れる時間、そのありようを示している。 だからこその「12年間」(当初のタイトル)であり"Boyhood"であるのにさ。 

6歳のMason (Ellar Coltrane)はママ(Patricia Arquette)と姉 (Lorelei Linklater)と暮らしていて、バイオロジカル・パパ(Ethan Hawke)とは別居してて、大学で心理学の勉強を続けながら2人を育てるママは、パートナーを割ところころと変えて、そのたびに住む場所も家も変えて、そういう環境でMasonは利発で快活な少年としてすくすく… なわけはなくて、どちらかというと内向的でなに考えているかわからないような子供になる。 彼の内面の声が外に出ることはなく、それを代弁したり理解してくれたりする「かけがえのない」誰かが現れるわけでもない。 こういう少年~青年映画に求められがちな誰かとの死別とか離別とか暴力とか虐待とか辛酸とか性体験とかが、劇的な転換点として描写されることは一切なくて、家族が変わったり土地が変わったり、みんな(家族、友人たち)で集まったり、のような場面ばかりが淡々と続いていく。 語りも字幕(x年後...とか)も一切なくて、たまに登場するおしゃべりパパ - Ethan Hawke がいろんなことを勝手にべらべらと総括してくれる、程度。 そんなふうにして6歳から18歳までの12年間が、165分で描かれる。 

同じ登場人物たち - 特に主演の少年は変化が激しい - を12年間に渡って追った、しかもフィクションの世界で - ということばかりが話題として強調されがちだが、Richard Linklater &  Ethan Hawke組の場合、そんなに驚く必要はないの。 こいつらは、"Before Sunrise" (1995) ~ "Before Sunset" (2004) ~ "Before Midnight" (2013) の三部作で一組の男女の出会いから瓦解までの18年間を294分でしゃべり倒している前科があるので、今度のはその変奏、と見てよいのかもしれない。 もちろん、"Before"3部作はJulie DelpyとEthan Hawkeという卓越した二人の俳優がいたから、というのがあったにせよ、"Before Sunset"のときのトークで、「ぼくらは文芸おたくだから、こういうのを練り上げるのは大好きだしぜんぜん苦にならない」と威張っていたRichard LinklaterとEthan Hawke組からすると、今度のはとても楽しいネタだったに違いない。 とくに頭のなかにいろんな言葉がとぐろを巻いている思春期のガキのあれこれを眼差しや挙動も含めて表に引っ張りだそうとするのって。

そういう彼らの「手口」みたいなのが表に出るところが最後の方の、パパとMasonの会話にあって。
べらべらいろんなことをしゃべりまくるEthan Hawkeに向かってMasonは「その話のポイントってなんなの?」- パパ「ポイント、ってなんだ?」 - Mason「なんでも。ぜんぶ(Everything)とか」 - パパ「ぜんぶ、なんてないんだ。いいか、こんなの勢いでしゃべってるだけだ .. 」 とかいうの。 このへんにRichard Linklaterの映画のコアと拡がりがあるのね、てみんな膝をうつの。

そしてラストの、女の子とMasonのふたりのカット。 まさにここから次の”Before”サーガが始まる(The Force Awakens… )、恋が呼吸を始めようとする、光を放とうそするその瞬間の、ぞくぞくくる生々しさと共におわるの。 

MasonのBoyhood、それは同時にある時代/アメリカの中西部に暮らす家族のありようも映しだしていて、911からブッシュ政権のイラク派遣のうんざりした混乱と疲弊を抜けてオバマ政権誕生のあたりまでの割とどんよりした季節からすこしだけ光が見えたあたり、もバックグランドには確かにある。 ブッシュ憎し、でがんがんオバマを支援していたパパが、再婚したら相手の父は猟銃ラブのごりごりじじいだった、とかいかにもありそうで笑える。

音楽も同様でねえ。 ものすごいメジャーでどまんなかの曲は避けて、あの頃の苦笑するしかないような微妙なやつを流しまくるから、ところどころたまんなくなるの。

というわけで、ついこないだ発表されたNew York Film Critics Circle Awardsの作品賞も監督賞も、当然だとおもった。 まだまだいっぱい貰っても不思議じゃない。


それにしても、American Football来日はとってもうれしいけど、日にちが2015年6/29て。
(そのころまで生きていられるか... )

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