1.02.2013

[film] 猫と庄造と二人のをんな (1956)

まだ2012年の暮れ。
23, 24のクリスマス前の連休の日月は、神保町シアターの山田五十鈴特集で短編も含めて4本みました。

『國士無双』(1932)
23日のお昼、ライブピアノ伴奏つき。

うまい飯と酒にありつきたいから、有名な剣豪と同じ名前を名乗れよ、と言われた片岡千恵蔵がいいよ、って適当に答えてタダ飯作戦はうまくいって、こんどは乱暴されそうになっていた若い娘(山田五十鈴)を助けたら、そこで剣豪の本物と鉢合わせして、勝負じゃ!って対決したら剣豪にあっさり勝っちゃっうの。剣豪は修行のため山奥に篭ることにするのだが、そこで山奥の仙人にどこからでもかかってきなさい、って言われてかかってみたら仙人はやられちゃうの。

たった16分しかないのだが、なんでそんな方に… ていう無茶な転がりかたをする。江口寿史の漫画みたいだった。

『嬉しい娘』(1934)
『國士無双』の後に続けて、ピアノ伴奏もおなじく。

父親のリタイアに伴って会社を継ぐことになった遊び人のバカ息子(杉狂児)が町で見かけた山田五十鈴に一目惚れして追っかけてみたら、彼女は自分が後を継ぐ予定の会社で事務員をしているのだった。 というお話と、彼女の弟がお腹を壊して病院に運ばれるのだが、簡易保険に加入していたお陰で急なときでも助かりましたの、ていう簡易保険のプロモーションもあるの。

最後に心を入れ替えたバカ息子のスピーチに彼女がまっすぐな目線で応える場面が素敵なの。 といっても彼女はそこに立っているだけ、目だけ、それであの堂々と揺るぎないかんじ、すごいねえ。

あと、彼女の父親役で志村けんが出ていた。


『新篇  丹下左膳  隻眼の巻』(1939)
『國士無双』+『嬉しい娘』の次の回に見ました。

全部で4巻作られたらしい「新篇 丹下左膳」もので、現存するのはこの3巻のみらし。

冒頭、狂ったような奇声をあげてよろけながら向こうに走っていく男、その後に橋の上で果たし合いがあって、その半狂乱だった男は片目を切られてしまい、みんなが知っている丹下左膳(大河内伝次郎)になるのだが、ずうっとすごく血なまぐさくて暗い雰囲気、殺戮前夜の緊張感とその表裏にある虚しさが全編を覆っている。
そんななか、彼を匿ってくれた家の娘(高峰秀子)とお相撲さんみたいな下男との会話だけが別世界のようにほのぼのしていて楽しい。

ラストの多勢に無勢の敵討ちシーンは暗い風が渦巻く中あっという間でなにがなんだかわからず、決着がどうなったのかも不明。 絶体絶命のようにも、これはもうだめでしょ、にも見える。

かっこよくてよかったのだが、なんだか疲れたので次の『折鶴お千』は諦めて帰ったのだった。


『猫と庄造と二人のをんな』(1956)

クリスマスイヴのお昼に見ました。 原作は谷崎潤一郎。
とっても素敵なファミリームーヴィーだったよ!

冒頭、荒物屋の庄造(森繁)の妻(山田五十鈴)が姑(浪花千栄子)に悪態ついて出ていくとこで、姑は持参金目当てでぴちぴちであばずれの香川京子を後妻に据える。 最初は若妻を喜んでいた庄造だがだんだん耐えられなくなって愛猫リリーとの愛とその深みに溺れていく。 他方、妹夫婦宅に潜伏し諦めきれない山田五十鈴はリリーをだしに庄造奪還計画を企てる。

最後は山田 vs. 香川の怪獣映画みたいなどアップの修羅場取っ組みあい喧嘩で、やっぱし愛は猫のところにしかないんだな、るるるー、って流れていくの。

タイトル通り、エコシステムの頂点にいるのが猫リリーで、その下に庄造、最下層にふたりのをんな、というツリーになっているのだが、じつは、反対側のあやつり糸の突端には鬼の姑がいて、紡錘形の両極で猫とばばあが招き招きで引っ張りあうという女系の構図がある。
それがどうした、であるにせよ。

でもこんな話、へたな役者がやったら猫だって跨ぐに決まってるのに、さすがにぜんぜん違うのね。
みんなうますぎ。猫ですらまったくぶれないという。

猫と庄造と二人のをんなは、あの後どうなったのか結局わからない、のかも知れないし、或いは同じ場所をえんえんぐるぐる回り続けているだけ、なのかも知れない。
で、それでぜんぜんいいんじゃないか、と。 わかりあえるとか、絆とか、そんなの猫の餌にもならねえし。

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