3.27.2024

[theatre] The Hills of California

3月13日、水曜日の晩、Harold Pinter theatreで見ました。演劇を見ていこうシリーズ。

作はJez Butterworth、演出はSam Mendes。Sam MendesのとIvo van Hoveのは、なんとなく入りやすい気がするので見る。Sam Mendesの”Empire of Light” (2022)は、評判よくなかったけどわたしは結構好きで、この舞台にはあの世界にも似た失われてしまった過去から吹いてくる風を感じるような。

1976年、熱波に見舞われた海沿いのリゾート地、ブラックプールで宿屋をやっている木造の古い家屋がある。3階くらいまでの急な階段があって、部屋にはアメリカの州だか町の名前が付いていて、癖のある宿泊客がふうふう言いながら階段を昇っていったりする – そこの上の階だか袖の方だかにある見えない部屋に寝たきりになった病人がいるようで、それはここの主人だった母、その介護をしているのが真面目そうな末娘のJill (Helena Wilson)、その上の姉Ruby (Ophelia Lovibond)も、更にその上の姉Gloria (Leanne Best)も実家に戻ってきて、どちらも今の生活とかこれまでのことで疲れて愚痴と悪態を吹きまくりで大変そうで、Jillがひとり黙々と真面目にがんばっていて、一番上の姉のJoan (Laura Donnelly) – かつて姉妹の希望の星で、一番成功してカリフォルニアに渡っていて、いくら手紙を出しても返事が戻ってきたことがない – でも誰よりも一番待たれている伝説の、最強の長女 – だけが帰ってこない。彼女さえ戻ってきてくれたらー。

第二幕は同じ家で、まだ母(Laura Donnelly二役)が若くて、彼女を囲む四人姉妹がみんなで歌って楽しく夢を見ていた頃の思い出が浮かびあがる。姉妹の歌と振付はずっと練習しているのでみごとに決まっていて、これなら揃って芸能界デビューも、とか言っているとアメリカからそういうのを仕事にしているぽい男が泊まりにきて、彼の前で姉妹がレパートリーを披露すると、彼はJoanひとりを指さして、上の部屋で直接聞いてみたい、と不気味なことを言い、それがどういうことかなんとなくわかっていながら、誰も止められずに…

第三幕はRolling Stonesの”Gimme Shelter”にのって華々しく、というか彼女も別なふうに疲れてやつれて苦しんでいるようなJoanが登場して、家を出てからここまでの悲惨に見えなくもないあれこれを土産話のように語り、そんなのいいから母さんに会ってあげて、というJillとぶつかったりしつつ…

こないだNational Theatreで見た”Dear Octopus”も、数年ぶりに父母のいる実家に戻ってきた子供たちの話 – でもこちらが金婚式のおめでたい集いだったのに対し、こちらのは悲しく辛く、それぞれの目に見える重荷を背負って傷だらけの再会で、でもタコみたいに絡みついたら離れない「家族」的ななにか、はおそらく共通している。その吸盤の痣はこちらの方が深く痛々しいかも。

Joanが家を出てカリフォルニアに渡ってどさまわりのロックスターみたいなヒップで荒れたやりたい放題をしていたその反対側で、Jillは結婚もせずにひとり真面目に暮らして、真ん中のふたりの姉妹にもそれぞれいろいろあって… この劇でちょっと残念なところがあるとしたら、彼女たち(母も含めて)の家を出てからの、或いは残ったままの苦難の旅をひとつ屋根の下になんの縛りも拘りもなく寄せ集めて宙に浮かせてしまったこと、だろうか。それぞれの立場や似た境遇の誰かを思ったり思いだしたりしてしんみりすることはあるのかも知れないが、それだけだととっ散らかって弱いかも。 JoanとJill(or 他の姉妹)は正面からぶつかって大喧嘩すべきだったし、(無理だとわかっていても)母になにかを語らせるべきだったのでは、とか。

昭和くらいの昔の、都会と田舎の話、四姉妹の話、家族のどこかで止まってしまった時間、など日本の寂れた町を舞台にしたドラマに翻案しやすい要素もいっぱいあるか、な?

英国の西海岸とアメリカの西海岸と。ブラックプール、行ってみたくなったかも。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。