3.12.2024

[film] Origin (2023)

3月4日、月曜日の晩、BFI Southbankで見ました。
この時点ではまだPreviewという扱いで(今は公開されている)、上映後には別の部屋で更に掘り下げていくレクチャーとディスカッションがあった(がこちらは参加できず)。

“Selma” (2014)のAva DuVernayによる新作。1994年にアフリカン・アメリカン女性として初めてピュリッツァー賞(ジャーナリズム)を受賞したIsabel Wilkersonが“Caste: The Origins of Our Discontents” (2020) - 翻訳は『カースト アメリカに渦巻く不満の根源』(2022) -岩波書店(未読) – を書きあげるまでのお話。AunjanueEllis-TaylorがIsabel Wilkersonを演じる評伝ドラマの形式をとっている。

141分の長さで、仮説を確かめるべくドイツやインドの現場を訪ねていったりもするし、Isabel Wilkerson本人にインタビューしたり関連する資料映像を集めたりのドキュメンタリー形式にした方がよかったのではないか、という議論はあることはわかるが、肉親を次々と亡くしていく悲しみのなかで本を仕上げようとした彼女のエモーショナルな旅を描くにはこの形式が必要だったのではないか、と思った。構成としてやや散漫でとっ散らかったになってしまったことは否めないが、彼女がどうしてこの本を書こうとしたのか、の切実さはこちらに刺さってくる。(いっぱい泣くよ)

2012年のTrayvon Martinの射殺事件 – 地元のヒスパニック・アメリカンが自分たちの居住地区にいたアフリカン・アメリカンを射殺した事件に対する周囲のコメントや見解がひっかかったIsabel (Aunjanue Ellis-Taylor)は、その思索をナチス占領期のドイツへ、さらにはカースト制度が残るインドへと広げていく。アメリカで今も続く人種差別とナチスがホロコーストで行おうとしたユダヤ人の絶滅は同じものなのか違うのか? 人種としては同じなのにずっと解消されないままのインドのカースト制は? ディナーパーティーの席で友人からはアメリカのは労働力確保のため、ナチスのは経済政策の一環だったので違うものだよ、と言われたり..

こうして、ナチス・ドイツ下でのナチス党員の彼とユダヤ人の彼女の間に起こった悲劇や、”Deep South” (1941)の本で、地域の差別のありようを研究・執筆したAllisonとElizabeth Davis夫妻のこと、インドのダリット(不可触民)から研究者となったDr. Ambedkarのこと、人種隔離で白人と同じプールに入ることを許されなかったAl Brightのことまで、再現ドラマを交えつつ考察していく。

それと並行して、よき理解者でもあった最愛の夫Brett (Jon Bernthal)を突然に失い、母Ruby (Emily Yancy)を、仲良しだったいとこMarion (Niecy Nash)を亡くしてしまう。これら連続した肉親の死と彼女の探求の繋がりが明確に語られることはない。のだが、ひとつの軸としてあるのは家族や一緒にいる人のかけがえのなさ、共に過ごした時間のことで、それは差別がどう、というのとは全く相容れないなにかで、それなら/それなのになぜ? という根源的な問いがくる。Isabelが水浸しになった家の地下を見て貰うのに呼んだ配管工(Nick Offerman) – MAGAの赤帽子を被って終始不機嫌 – に家族のことを尋ねてみるシーンは象徴的だと思った。

彼女の本はジャーナリズムの文脈で書かれたもので学術論文ではないからその真偽は、とか信憑性については、などという話ではなく、この映画でIsabelが、Ava DuVernayが繰り返し切々と語っているのは、差別は人を殺し、愛する人同士を死と同じように引き裂いてしまう、その根が歴史だろうが文化だろうがなんだろうが – だからとにかく絶対にだめなのだ、というのと、Isabelの説が正しいとすると、支配層が上位にある社会はその根幹に「カースト」と呼ばれるある属性をもった集団を(可視であれ不可視であれ)仕立てて隔てて、差別する(ひとによっては区別と呼んだりする)仕組みを巧妙に組み込んでその構造を維持しようとするのだ、と。そうすると、そこに「社会」がある限り、差別は不可避なものなのか? そうだったのかもしれない – けど社会って自分たちで変えられるものだし、変えようとしないと、だから。 だから、過去に何があったのかを直視することは大事だし - だからその構造 - 差別を維持したい社会は歴史を隠したり修正しようとするのだしー。

とにかく、何人殺せば気が済むのか、いいかげんにしろ、ってガザの方を見ていうし、日本がどれだけしょうもない国に堕落しようとしているのかとか… (溜息)

それにしても、ここでのAunjanue Ellis-Taylorのすばらしさときたら。怒りと絶望をもって過去を見つめようとする強さとすべての隣人を抱きしめようとするやさしさがひとつにかためられて人のかたちになっているような。口をつぐんでいる彼女の姿を思い出すだけでなんかくる。

教科書のように繰り返し見られてほしい。ちょっと長いけど。

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