5.07.2023

[theatre] Hamlet à l'impératif !

『ハムレット(どうしても!)』

4月30日、日曜日の夕方、ふじのくに⇄せかい演劇祭というのが行われている舞台芸術公園 野外劇場「有度」で見ました。 GW中ほぼ唯一の - あと町田の国際版画美術館にいった - 遠出で、静岡の駅に降りるのもその先の東静岡に行くのも初めて。 29-30日の2日間公演の2日目。この地域の30日の天気は数日前から雨マークで覚悟していったのだがなんとか持ちこたえてくれた。

シェイクスピアの「ハムレット」(1601) を元に作・演出・監督のOlivier Pyが2021年のアヴィニョン演劇祭で上演した10エピソード、町中の公園で無料で見ることができたという10時間に及ぶオリジナル版のエッセンスを150分(休憩なし)に凝縮したエピソード11として上演するもの。

無料の送迎バスで謎の山の上に下ろされ、ステージも屋外で奥には木が植ってて、ステージの上には本棚(リアル本はほぼなし)が並んで手前に黒板が一枚、左手にはドラムセットとコンソールが。俳優は男性3人女性1人、場面によって複数役を演じ分けながらずーっと走り回ったり喋ったり歌ったり。

「ハムレット」の有名な台詞や場面について、これまで分野を跨いで研究者や哲学者等があれこれ解釈したり、自身の論考の補強や裏付けとして引用したり適用したり、ものすごく柔軟で幅広で今なお謎に包まれていろんな香りを放つ最強のクラシックをそれらの「読み」と「悩み」を一緒にぶちまけつつ併走してみる。特に若きハムレット王子が悶え苦しみながら舞台の上に撒き散らす倫理的要請 - わたしがこれをやるべきなのか? いま本当になにをなすべきなのか? といった根源的な問いの数々について。

エピソード1.は有名な一句 - “To be or not to be”が提起する問いのありようについて。2.はデリダとウィトゲンシュタインを引きながら道徳上の要請(って何?)について。3.はイヴ・ボヌフォアの『時間の蝶番が外れている』- “Time is out of joint”のいろんな訳と解釈を巡って。4.は演劇について語る演劇、という自己言及性のぐるぐるについて。5.は『言葉、言葉、言葉』- “Words, words, words”について、ウィトゲンシュタインのあれとか。6.は王殺しの先延ばしについてのいろんな仮説と解釈。7.はハムレットとガートルードの間のエディプス・コンプレックスについて、フロイトからラカンまで。8.はTate Britainにある”Ophelia” (1851–2) の表象を巡るあれこれ。9.は掘り起こされた道化師ヨリックの頭蓋骨から死のイメージについて。10.はハムレットの分身、語り手としてのホレイシオについて。

このメニュー構成なら各エピソードに1時間掛けたって、大学だったらこの内容で通期のクラスがあったっておかしくないと思うのだが、これの全部盛りを150分にぶっこんで走り抜けるのはやはり相当の無理があった気がする。

ひとつは(テーマにも反映されていた)英語の原典を仏語に翻訳する過程で生じる解釈のギャップを消化したり説明したりしながら演じていく必要があったこと、更にそれを日本語の字幕(4行だて)に落として、それでも追記や脚注が必要なところ(あるよね)は都度配られていたデバイスから音声ガイドが入ったのだが、とにかく目から耳から入ってくる情報量が半端なく洪水で大変で。後半はラップバトルのような。

でも一番大変で苦労まみれだったのは元の台本とそれが参照している元テキストも含めて字幕に丸めて落とした翻訳の平野さんだったのではないか(Twitterで何度もしんでておもしろかったけど)。「ロゼ氏とギル氏」とか。

では小難しくてついていけなくてお手あげ、かというとそんなでもなくて、それは「ハムレット」の劇そのものの展開 - 主人公のしょうもない自家撞着とかお悩みの涙と涎でがんじからめになりつつ転がっていく - にうまくリンクしていたのからなのか、ハムレットの謎がメタ・ハムレットに反転してそれが更にやけくそ・開き直り気味にメタ・演劇の方にまで刺さろうとする。そんなふうに広げられてしまう風呂敷も若いからしょうがないか、とか。

最初のうちは割と落ち着いて参照項やメタな諸説を紹介していったのが、最後の方になるとすごい速度と勢いで「演劇」がすべてをなぎ倒して突っ走っていくようだったのもおもしろかった。それが山の、陽が落ちてからの冷え(いきなりすごく寒くなってびっくり)に同期しているかのようで。

ただ、最後の方の、こうして広げた風呂敷の上にあらゆる人文系の生の、世界の謎があり、その答えもきっと - だからこそ演劇はえらい!すごい!(どうしても!)みたいな怒涛のもっていき方はわかんなくはないけど少しやりすぎな気もした。この世には小説も詩も絵画も音楽も映画もあるし、それぞれの作家にそれぞれのやり口があるし、シェイクスピアの、ハムレットの世界の幅と深度がすごいのは確かだけど、でもそれを言っちゃあー、みたいな。

取りあげられるテーマとしては、ではどうしてこれが「悲劇」とされているのかとか、ここにあるのかないのかの「悪」についてとか、あったら見たかったかも。あったのかしらん?


連休が終わってしまう。1日2日を休んでの9連休だったが、フォードを9本、ゴダールを5本、ゴダール関連1本、ソクーロフ1本、アケルマン1本、ベロッキオ1本、新作5本、演劇1、美術3、くらいでなーんもしなかった。なんもしたくない。

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