5.22.2023

[film] Le otto montagne (2022)

5月14日、土曜日の午前、新宿ピカデリーで見ました。 英語題は”The Eight Mountains”、邦題は『帰れない山』。
原作はPaolo Cognettiによる同名小説 (2016) – 未読 - をベルギーのFelix van GroeningenとCharlotte Vandermeerschが脚色して監督した147分。昨年のカンヌで審査員賞を”EO”と並んで受賞している。

冒頭、帰ったときにずっとそこにいてくれる何かがあるのってすばらしいことだ、ってトトロのいそうな大きな樹が映される。

1984年の夏、11歳のPietro (Lupo Barbiero → Andrea Palma → Luca Marinelli)は母Francesca (Elena Lietti)と一緒にイタリアアルプスの山荘を借りて滞在して、そこの村で同い年で一人っ子のBruno (Cristiano Sassella → Francesco Palombelli → Alessandro Borghi)と知り合って仲良くなる。山の滞在はひ弱な都会っ子のPietroを鍛えるのと、トリノでエンジニアをしている多忙な父Giovanni (Filippo Timi)にとっては年数回の大切な休暇でもある。

GiovanniはPietroとBrunoを連れて山歩きに出掛けたりするが、Pietroが高山病に掛かったり、家の手伝いばかりで十分な教育の機会を与えられていないBrunoをトリノに引き取って高校に行かせようとしてもBrunoの親に反対されたり、いろいろ思うようには運ばない。やがてBrunoは石工職人になるべく実の父親に引っぱられていったまま姿が見えなくなり、Pietroも父の休暇都合で山に引っぱっていかれるのはもううんざりだ、って喧嘩して山からは遠ざかる。

そこから15年が過ぎて、職を転々としながら31歳になったPietroは父の突然の死で呼び覚まされ、久々にあの山に向かうと、Brunoと再会する。BrunoはPietroを連れて山の上の廃屋に連れていき、Giovanniが生前この土地を買ってBrunoにこの小屋を再建することを約束させていたのだ - Pietroが実父と疎遠になっていた間もGiovanniはBrunoと頻繁にあって面倒をみたりしていた、って。

こうして夏の間に木を運んだり石を積んだりを始めたBrunoに付きあう形でPietroも山小屋作りを手伝って汗にまみれて、ここは以降ふたりが好きなときに好きなように使う小屋になるのだが、Pietroは自著の執筆のためネパールとの間を行き来するようになり、麓の村で酪農を始めたBrunoはPietroの彼女だったLara (Elisabetta Mazzullo)と一緒になって子供も生まれて、PietroとBrunoの関係はその距離を保ちつつもBrunoのとこの酪農では家計の維持が難しくなっていって… そういう中でBrunoは突然姿を消してしまう。

原題にある「八つの山」は、古代インドの世界観にある須弥山(しゅみせん)を中心とした8つの山と8つの海が囲む世界まるごとで、真ん中のは決してたどり着くことができない(帰れない)山で、それは徳を積んでいないからとか修行が足らないからとか、そういうのではなく、なにをどうしたって人は別れたり死んだりするし、土地も暮らしも変わっていって何が起こるかわからないし、みたいな諸行無常に繋がっていて(たぶん)、そんなこと言ってみてもどうしようもないじゃん、っていうただそれだけの話なのかもしれないが、PietroもBrunoも、Giovanniもずっと見つめてきた山の風景の向こうにそういう山の影をうっすら見ていたのではないか、って。でもそこからそうやって山を見つめる人/山に向かう人の哲学、のような臭いところには向かわず、ずっとすれ違い続けて、でもどこかで繋がっていた .. のかもしれない.. そうだったらよかったのにね … くらいの。

山を巡る、場合によっては悲痛で酸欠をもたらしたりしてしんどい、どこまで歩いていっても届かない象徴的な無駄足のありようを、ありがちな雄大さとか神々のなんとか、のようなところに落としたり徒に讃えたりせずに、3人のそれぞれの道行き – ぷっつり切れたり消えたり、にうまく合わせているというか。おわりは鳥葬でいいじゃん、とか。 このスケールにスタンダードサイズの画面がちょうどはまる。

こうやって筋だけ並べてみてもなにがおもしろいのかさっぱり、かもしれないが、男たちの強そうでいてぜんぜんそんなではない内側とちっとも劇的な現れかたをしない山のコントラストはなんかよかった。”Brokeback Mountain” (2005) のほうに行ってもおかしくなかったのに、行かない。これが海の近くだとまた違ってくるのではないか、とか。


RIP Martin Amis - 彼やZadie Smithが俳優として出ていた”Good Posture” (2019)などを思い出して、また見たくなった。

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