5.02.2023

[film] The Whale (2022)

4月23日、日曜日の夕方、Tohoシネマズの日本橋で見ました。
監督はDarren Aronofsky、これが久々の主演作となったBrendan Fraserはオスカーの主演男優賞をとってその復活を印象付けた。ボディースーツで身体を自由に動かせない中での演技は確かにすごいかも。

カメラはほぼ部屋のなかと、ドアを出たところにとどまる。外は雨が降ったりしていてずっと暗く、部屋のなかも雑然としていて同様。原作はSamuel D. Hunterが2012年に書いて、ワークショップ形式で作られた同名戯曲作品だそう。

Charlie (Brendan Fraser)は病気と診断されて治療が必要な肥満を抱えて不自然に膨れあがって自分では自由に動くことができない状態で、オンラインで大学の英語教師 - 論文の書き方とか - をしているのだが、自分を映すカメラは壊れたことにしてずっとオフのまま。 食事は同じ宅配ピザのひとが玄関に置いてから、郵便受けの$20を取っていく - 顔はあわせない - というのをずっと続けている。 唯一頻繁に家のなかに入ってくるのは友人のような看護師のLiz (Hong Chau)だけで、彼がゲイポルノをみていて突然現れた新興宗教の伝道師Thomas (Ty Simpkins)のせいで心臓の発作が起きたときには、もう病院に行かないとやばいよ、と強くいうのだが、医療保険に入っていないから無理、って返される。

映画はその動けない彼 - この状態では病院に行かない限り長くはないことが彼自身にもわかっている - の月曜日から金曜日まで、世話をしにやってくるLizと、宗教いらないから、って追い払ったのになぜかやってくるThomasと、離婚していてずっと会っていないけど突然会いにきたティーンの娘のEllie (Sadie Sink)とのやりとりを通してだんだん明らかになってくる人物たちの関係とか背景 - 特に彼の過去になにがあって、なにを飲みこんで溜めこんでそんな鯨のような巨体になってしまったのか、を追っていく。

Charlieがホモセクシュアルであることは最初のほうで明らかになり、Thomasの新興宗教を毛嫌いするLizから彼女の父がそこの信者で自分も幼い頃に入信させられてどうしても馴染めなくてやめたこと、更に彼女の兄がその教団の宣教師として南米に赴き、その後に自殺していること、その彼の最後の恋人がCharlieだったこと、Charlieはその彼のために8歳だったEllieと妻を捨ててこの家に移ったこと、などが曜日を追うごとにCharlie本人からというより周囲の人々との会話よって明らかにされ、最後のほうでは妻のMary (Samantha Morton)まで現れて対話する、とても演劇的な作品。

でもそれでも、それは彼のお通夜の席で語られるようなことに思えて、肝心なことは彼が食べてしまった後のお腹の中にあるのではないか、って。Charlieを薬で眠らせてEllieとThomasがあれこれ探るシーンなどを見て思ったり。 ひたすら食べて風船のように膨らんでしまった彼をケアする、ようでいてみんな陸に打ち上げられた瀕死の鯨にたかりにやってきているように見えてならなくて。

でもそれでもCharlieは、たったひとつでもよいからなにかよいことを遺しておきたいんだ、って悶えて泣いて、最期には救済のイメージもやってきて彼を包んでくれたりもするのだが、ほんとうに彼はあれでよかったのかしら? という坐りのよくないかんじは少しだけ残る。 ひとが幸せに消えるのって難しい。

Charlieが最後まで手元にとっておいたEllieのeighth gradeのときの”Moby-Dick”についてのレポート、あそこで言及されているテーマや記述の先送り - とにかくなんでも先送りで飲みこみ続けたのが彼をあんなふうに変貌させてしまったのだ、っていう寓話なのかしらん。ずっと雨が降っていたので、最後は洪水で海に還っていくのかと思った。

最近はどうか知らないけど、少し前のアメリカだと年に1〜2回は肥満で動けなくなった人を搬送するために建物の壁を壊したり重機が出動したりの大騒ぎニュースがあったり、町を歩いていてもカートを押しながらどっしり山のように動いている人を見かけたりし、なんであんなふうになるまで? は誰もが思うにしても、そこにはアメリカの食文化とかコミュニケーションとか教育のありようとか家族観とか宗教観とかいろいろな事情があるので、簡単にくじら〜 などと言い切れるものでもないのなー、って改めて。

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