5.05.2023

[film] Up the River (1930)

シネマヴェーラで始まっている特集『蓮實重彦セレクション 二十一世紀のジョン・フォードPartⅢ』については、「フォードを、断乎、観るのだ」とか元総長が改めて煽ってくるし、今回のは10回見たらおまけも付いてくるというし、どうせ他にすることもないGWだったりなので、ちょこちょこ通ってしまう。(もうおまけもらった)

やっぱしJohn Fordは選ばずになにを見てもとりあえず絶対それなりにおもしろい。パーフェクトな至福体験かというと案外そうでもなくて、そんな有名じゃない作品なんかだと思っていたほどの巨匠感もなくて軽くて、そんなんでいいの? とか、そっちの方か? とか突っ込みながら見れて、それでも振り返るとちゃんと場面場面が残ってそういうことだったのかー、って納得させられたり、いろんな点で極めて教育的な映画 - 映画とは?を考えさせてくれる - でもあるなあ、とか。


Arrowsmith (1931)

4月23日、日曜日の昼に見ました。
邦題は『人類の戦士』、原作はSinclair Lewisの同名小説(1925)で、翌年のピュリッツァー賞を獲っている(けど作家本人が辞退)。オスカーの4部門にノミネートされて、後にラジオドラマやテレビシリーズにもなった。
主人公のMartin Arrowsmith (Ronald Colman)は架空の人物だが、Gottlieb博士の研究業績などは科学ライター(有料)のアドバイスに基づいているそう。

大学に入って、そこで床掃除をしていたLeona (Helen Hayes)と出会ってほぼ命令のように妻にして、恩師からは将来を期待されていたのに生活しなければならなくなった、と田舎の町医者になり、それでもその地域の牛に蔓延していた病を治したりしたのでNYの研究所に招かれて、そこでの権力抗争も実力で勝ち取り、家族もでっかくなってよかったねえ、っていう人類の戦士。

疫病の現場の前線に立って研究も含めてすごいことを成し遂げた偉人、というだけでなくそれなりの権力志向 - 出世欲とか支配欲とか家族愛 - でも少し浮気もして - にまみれて、そういう人の肖像ってこんなもんよね、くらいの。重厚じゃないかんじがよいかも。


Up the River (1930)

4月29日、土曜日の昼に見ました。邦題は『河上の別荘』。
冒頭、夜の刑務所からSaint Louis (Spencer Tracy)とDannemora Dan (Warren Hymer)のふたりがすたこら脱獄して、でもまたあっさり捕まって自分の定宿のように戻ってきたりしている傍で、東海岸の名家の出なのに嵌められて監獄に送られたうぶなぼんのSteve Jordan (Humphrey Bogart - この人、こういうキャラの方があってると思うんだけど)と女囚のJudy Fields (Claire Luce)がもじもじと恋に落ちて、先に恩赦で外に出たSteveのところにSaint LouisとDannemoraが現れて- 家族は彼が牢屋にいたことなんて知らない - なんとか後から出てきたJudyとSteveを軽くくっつけて、ついでに彼を嵌めた詐欺野郎をやっつけて、自分たちは監獄対抗野球試合が行われているグラウンドに揚々と戻っていくの。

河上にあるあの住処もそんなに悪くねえだろ? 俺たちがいる限りはなあ? みたいに極めてご機嫌で威勢がよくて粋なやつで、たまんないの。大好き。


The Plough and the Stars (1937)

これも4月29日、↑のに続けて土曜日の午後に見ました。
邦題は『鍬と星(北斗七星)』。アイルランドの劇作家Seán O'Caseyの同名劇 (1926)がベース。 Barbara StanwyckさまがこんなJohn Fordの作品に出ていたなんて。

1916年のEaster Rising - 「イースター蜂起」の前夜〜当日のダブリンで、蜂起した側にいた夫婦のドラマ。
Jack (Preston Foster) とNora (Barbara Stanwyck)はごく普通の夫婦でNoraは最近の政治のゴタゴタに夫が参加したり連れていかれてしまうことを危惧していて、彼に確かめてみると大丈夫だよ、って言うので少し安心したら速達が来て、蜂起軍の司令官に任命したから来い、って。 Noraが恐れていたのはこれだ! お願いだから行かないで、って頼んでもJackは大丈夫だよ、しか言わない(言えない)ので、なにが「大丈夫」なのか、わたしはぜんぜん大丈夫じゃないんだよ! 死んじゃうかもしれないんだよ? わかってんのか? って泣いて怒る。

Noraが言うことの方がどう見ても聞いても正しいのだが、Jackはやはり出ていっちゃって…

この件だけじゃなくて、戦争でも反乱でもぜんぶそうだよな。「大丈夫だから」を言うために平気で人を殺して殺されて、大丈夫じゃない事態を常態にして、それって誰のためのもんなのか? と問う。 紛争を扱うドラマとして規模は大きくない、ほぼひと部屋のなかで進行するとても演劇的な小品だけどすばらしかった。

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