4.17.2023

[film] Toute une nuit (1982)

4月9日、日曜日の午後、ヒューマントラストシネマ渋谷のChantal Akerman映画祭で見ました。
上映後に斉藤綾子さんのトークつき。邦題は『一晩中』、英語題は”A Whole Night”だったり”All Night Long”だったり。 これまで見るのが難しかったのをようやく。撮影はCaroline Champetier。

すばらしい、絵画のように美しい一枚 - 一本だけど一枚、って言いたくなる。
『アンナの出会い』(1978)の興行的失敗の後、Isaac B. Singerのユダヤ教をテーマとした歴史小説を映画化しようとハリウッドに向かうがうまくいかず(まだ早いって言われて、なのに83年にはSinger原作 - Barbraの『愛のイエントル』が..)、この時の企てがやがて”Golden Eighties” (1986)に繋がっていくのだが、その前に地元ブリュッセルで小規模なもの - 断片が積み重なって、その連なりが何かを語ろうとするような - をやろうとしてフジの16mmで撮ったのがこれである、と。

ブリュッセルのある夏のひと晩 - 突然雷が鳴ったりしたある晩のこと、場所も後のトークで三箇所、と聞いてそうだったのね、と思うくらいで、登場人物も子供を含めて80名くらいいる(Chantalのママもいる。知り合いばかり)そうなのだが、主人公となって立ち回る人物はいない、とにかく夜の話なので画面が暗くて誰なのか何なのかよくわかんないのも多く、なんでそんなに暗いんだ? というとこれは夜の映画なのだから、暗いのはあたりまえではないか、と。

そして暗くても – 暗いから、人々は眠れずに人と会うために外に出ていったり、外の人を迎い入れたり、外のカフェとか酒場とかに居たり居あわせたりして語り合ったりたりキスしたりダンスしたりする。昼の明るさの元では難しそうなことが夜の暗がりでうまくいくとは思えないし、発せられた言葉が相手に届いているのかどうかすら確認できないのに、夜は夜できっと何かが変わるし起こるに違いない、って外に向かう。カメラはその暗さに従順で闇に潜んで、そこに蠢く動物たちを追い立てたりはしない。

なんで夜は眠らないといけないのか、その反対でなんで眠らせてくれないのか、なんで昼間はあんな(以下延々)ってやってられなくなって頭をかきむしって、外に飛び出してしまうのだが、そうやってコトがうまく運んだことなんてないし、しまいには『街をぶっ飛ばせ』とか言いだすのでろくなことにならない。そうなるのがわかっていても、ひとは誘蛾灯にむかう虫のようにカメラのほうに吸い寄せられていく、その生態ときたら不思議に美しいとしか言いようがない。

ドキュメンタリーではない、絵画のようにスライスを切り取って、その断面を重ねていくような映画で、最初のほうはドレスの色(深く滲んだ赤)も含めて、”Rose”という看板が見えるバーだかカフェだか、まるでEdward Hopperではないか、とか。部屋のなかに立ち尽くす女性とその目の向かう先とかやりどころとかも含めて、あの絵の枠に、部屋に、一緒にいたい人と、あるいはいたくない人と - 人生ごと閉じ込められているかのようで、でも絶望までは行かずに相手がどう来るのか、来てくれるのか、そしてやがて朝は来るのだろうか、などを息を呑んで壁の端から見つめているかのような。

あるいは、その状態に持っていくために、なにかを突破するために、とりあえず隣に座った人と唐突にダンスをしてみる – このあたりの不審かつ切羽詰まった挙動とコレオグラフはPina Bauschの世界 - Véronique SansonやGérard Berlinerといった流行歌の使い方も含めて - のようでもあって、あのうねりに押されて居ても立っても居られなくなる。

あと、夜の映画でいうと、昨年国立映画アーカイブで見た石田民三の『夜の鳩』 (1937) なんかも思い出したり。

夜の、その時間に囚われたひとりひとりの話なのに、パジャマを着ているひとも、TVをつけているひとも、PCをつけているひとも、スマホを見ているひとも出てこない。今の時代だったら成立しそうにない設定かも。全員がしかるべき衣装を纏って鞄を抱えたり書類にまみれたりして、夜に、あるいはその先の朝に備えている。なにが起こるかはわからないがなにかが起こるであろうことは確信している、その無防備でどうしようもない確信 - 朝がきたらぜったい後悔するやつ。

あと、夜の騒々しさ。NYの夜はサイレンとか救急車とかものすごくやかましいし、ロンドンはそういうのに加えて明け方に鳴きだす鳥がうるさくて、ヨーロッパの街もそんなノイズに溢れていたなあ、って思い出したり。東京は静かすぎてつまんないなー。

こんなふうにいくらでも書いていって止まらなくなる、それもまた夜の、夜中のなんかで。(朝になるとうんざり)


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