4.14.2023

[film] Die Büchse der Pandora (1929)

4月8日、土曜日の昼、シネマヴェーラの特集『「ハリウッドのルル」刊行記念 宿命の女 ルイズ・ブルックス』で見ました。
邦題は『パンドラの箱』、英語題は“Pandora's Box“。

刊行された「ハリウッドのルル」、映画館の窓口で割引価格だったので買って読み始めているのだが、編集者で序文を書いているウィリアム・ショーンの明らかに女性をバカにした文章に引くものの、ルルの文章がすばらしくおもしろい。(学生の頃、大岡昇平が騒いでいるのを見て、歳取ってからでいいや、と思っていた。もうそういう歳になった..)

ドイツの劇作家Frank Wedekindの当時上演禁止に追いこまれた同名戯曲 (1904)と“Erdgeist“ (1897) - アルバン・ベルクの未完のオペラ“Lulu“ (19)の原作でもある – をオーストリアのG. W. Pabstが脚色して監督した古典。 昔、MoMAでワイマール映画特集をやった時に見ている。

世紀末のベルリンで、新聞主のDr. Ludwig Schön (Fritz Kortner)の愛人Lulu (Louise Brooks)がいて、彼女の周りには胡散臭い老人Schigolch (Carl Goetz)とその連れのQuast (Krafft-Raschig)とかSchönの息子のAlwa (Francis Lederer)とかがうろついたり付きまとったりしていて、錯乱したまじめなSchönは結婚式に拳銃を持ちだして、自分で自分を撃ったのにLuluのせいにさせられる。

殺人罪の裁判でLuluは5年の刑を言い渡されるのだがSchigolchたちが火災報知器を鳴らして逃げることができて、Alwaと合流して列車で国外に逃げようとするのだが車中で伯爵夫人(Alice Roberts)とかCasti-Piani侯爵(Michael von Newlinsky)に会って助けて貰えた、と思ったらこれが罠でエジプト人の賭博船に売られて、そこをボートで抜け出してロンドンの裏町で売春とかをしながら暮らしているとそこに改心したがっているJack the Ripper (Gustav Diessl)が現れて…

誰もが知っているファム・ファタルものとして有名なやつなのだが、男たちを翻弄して地獄に堕としていく魔性の女(… 恥ずかしい)モノ、として見たとき、Luluは別にちっとも悪いことないししてないし、他方で群がってくる男たちは狡猾だったりゴミだったり悪だったりスケベだったり殺人鬼だったり全員どうしようもなくて、Luluはそういうどうしようもない連中から結婚~殺人~裁判~逃亡~堕落~破滅、といったイベントを通して彼らの写し鏡のように都合よく使われただけだったのではないか、事前も事後も、というのがわかるので、とてもかわいそうなお話し。圧倒的に醜くて悪くて酷いのは男の方なのに女の方にも非があったはず、って言われる典型のやつ。いまだに恥知らずの手口として広く使われているあれ。

本『ハリウッドのルル』の「パブストとルル」という章では、この映画でパブストがいかに厳格にルルの動きから衣装までコントロールしていたか、彼女がどうして、どんなふうにその個々の演出に感銘を受けて応えていったのかがその理由も含めて、クールにユーモラスに綴られていて、そしてこうして問答無用の「ルル」ができあがったのだ、というのがわかってとてもおもしろかった。女優と監督の理想的な関係。


A Girl in Every Port (1928)

同じ特集で、↑のひとつ前に見ました。 どうでもいいけど、『港々に女あり』 - 「こうこうにおんなあり」なのね。ずっと「みなとみなとにおんなあり」だと思っていた。

Howard Hawksのサイレントで、G. W. Pabstはこれを見てLulu役はLouise Brooksだ、って確信したのだそう。

タイトルバックに出てくるハートに錨のマークがなんかかわいい。あの柄のパンツとかあれば。

世界をまたにかける船員のSpike (Victor McLaglen)はどこの港にどういう女がいる/いた、みたいのをメモに書いて持っていて、港に着くとそれを頼りに知っている女性を訪ねてまわって○Xつけたりしてるのだが、どの彼女を訪ねていってもハートに錨のチャームを持っていたりその刺青をしていたりするのでなんか気分が悪い。そんなある日、Spikeは船員のSalami (Robert Armstrong)と会って飲んで一緒に喧嘩して、やがて彼がハートに錨の野郎だってわかって喧嘩しようとするのだが、海に落ちたりなんだりで結局ふたりは親友になる。

マルセイユで、そろそろ丘に上がって落ち着くことを考え始めたSpikeが見世物小屋で飛びこみ(ダイブ)をやっている娘 Godiva (Louise Brooks)と出会って一目惚れして、彼女こそが運命の、と思ってSalamiに紹介すると、彼らふたりはかつてコニーアイランドで恋仲で…

漫画みたいにわかりやすく単純な飲んだくれ男ふたりのあつい友情物語なのだが、女よりも俺らの友情 - こんな僕らをわかって許して、みたいに無邪気で甘えた高慢ちきの話しは前世紀までで終わりにしてほしかった(けどまだそこらじゅうに跋扈するいろんなのを思い起こしてなんか不快に .. そういう点では秀れた映画なのかも)。

ここでもLuluはもちろん、ちっとも悪くないのにー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。