2.18.2022

[film] The United States vs. Billie Holiday (2021)

2月12日、土曜日の昼、シネクイントで見ました。お客はやっぱりぜんぜん入っていなかった。

原作はJohann Hariによる“Chasing the Scream: The First and Last Days of the War on Drugs” – この本は1910年代から始まる米国の麻薬規制 〜 麻薬戦争をドキュメントしたものらしいが、ここがこの映画の”The United States vs.”の基調をなしている。 監督はLee Daniels。

アメリカでは1918年、リンチによる殺人を犯罪とする法案が起案されてからずっと通っていなくて(2018年に上院は通った。両院では未だ)、そうやって見過ごされて吊るされたまま放っておかれている白人の黒人に対するリンチのありようを”Strange Fruit”として歌ったBillie Holiday (Andra Day)は、これをはっきりと人種差別に抵抗する歌、として歌ってライブでも人気があった。

連邦麻薬局の頭だったHarry J. Anslinger (Garrett Hedlund)は、この歌が歌われて人々の間に広がっていくことを忌み嫌って、Billieはぜったい麻薬をやっているはずだからその証拠を掴んでしょっ引け、それを曝してどん底に貶めるのだ、と黒人の捜査官Jimmy Fletcher (Trevante Rhodes)をBillieの近くに送って、彼はファンとして近づいて彼女の信頼を得て、その後に正体を明かして彼女は1年間刑務所に送られる。

これらと並行して彼女へのインタビューがあり、インタビュアーは白人で、歌手としての彼女をリスペクトしつつもバイアスまみれの結構酷いことを平気で聞いたりしている。

彼女の夫もマネージャーも、みんなドラッグとバイオレンスに躊躇も容赦もなくずぶずぶの状態で - この辺、Arethaの”Respect” (2021)にも近いかも。子供の頃のレイプ体験も- それでも彼女の歌は広がって、それに伴ういろんなプレッシャーや狂騒が更に彼女を沼に追いやって苦しめていく。 Jimmyは彼女を牢屋に送ってしまった後悔と罪悪感から改めて彼女に近づいてなんとかその沼から救いだそうとするのだが..

テーマはタイトルにある通り、彼女はいかに合衆国(の捜査と、人種差別と、身の回りの鬼たちと)戦ったのか - サクセスストーリーではない、40-50年代の搾取と苦役にまみれたショウビズ界にあって、どんな酷いことをされても歌うしかなかった-歌うことでどこかに向かおうとした彼女の目が強く残る。Andra Dayのオスカーノミネーションは当然だったかも。

でも結果からすれば薬漬けのミュージシャンなんて彼女の後に山のように海のように登場して後を絶たないのだし、それが音楽(家)の評価(売上はしらんが)に影響したことなんてなかったのだし、”Strange Fruit”は彼女がどんな生涯を送った/送らされたにせよ、彼女の世紀をとうに跨いだ異国の我々の目の前にもその腐臭とそれを見つめる絶望が漂ってくるのだから、連中の企ては失敗に終わったとしか思えない。向こうは勝ち負けではない、とか言うのかしら。

捜査局側の白人たちのどいつもこいつも意地悪な犬のような描かれ方の反対側で、Jimmy Fletcher役のTrevante Rhodesさんの苦渋と葛藤にまみれた表情がすばらしくよかった。ここにBillieの疲れて諦めて呆けたような表情が重なる。

最近のBillie Holidayのドキュメンタリーとしては、”Billie” (2019) があって、ここでは彼女の周辺にいたミュージシャンや関係者のインタビューテープから彼女の生を浮き彫りにしようとしていて、更にそれがインタビュアー(女性)の謎の死と絡めて語られてぐるぐる巻きの謎が残されていて、もういっこのドキュメンタリー – “MLK/FBI” (2020)は、やはりFBIがMartin Luther King, Jr.を陥れるべく、彼のセックススキャンダルのネタを探し回る話で、この頃のFBIって碌なことしなかったんだなー、しかない。もちろん、いまのFBIがまともになったとはまったく言い切れないわけだが。

今から70年以上前のアメリカの話なのだが、思い浮かべたのは隣の韓国の文化あれこれをみんなが熱く暖かく受け入れているのに、その反対側の政府の周辺では歴史戦とか言ってヘイトを容認し垂れ流してなんとか貶めようと躍起になっている自分の国のことだったり。そんなことしてなんになるの?なにしてんの? っていうあたり。

とにかくBillie Holidayを聴こう。話はそれからだ、になる。
 

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