2.03.2022

[film] TITANE (2021)

1月29日、土曜日の晩、メキシコのMUBIで見ました。
昨年のカンヌでパルムドールを受賞したJulia Ducournauの”Raw” (2016)に続く新作。
いつものように少しネタバレしているので直に見てびっくりしたりしたい人は注意。

監督の前作の“Raw”はすごく変な映画で、人肉喰い少女、というと怖くて見れないホラーなのかも知れないのに、カニバリズムと家族の絆と青春映画が絶妙にブレンドされていて、なんだか見れてしまった。

今回のも予告とか評判を読んだ限りではクローネンバーグ混じりのぜったいやばそうなやつなのだが、ひょっとしたら.. の怖いもの見たさで突撃してみる。

冒頭、小学生くらいのAlexia (Adèle Guigue)が父親と車に乗っていて、彼女はだるそうに運転している父親に後部座席から不機嫌にちょっかいを出したら車は路肩に衝突して、彼女は病院で頭にチタンの板をはめ込まれた身体となる。

大きくなったAlexia (Agathe Rousselle)はモーターショーとかで車の上でくねくねして客を寄せるエキゾチックダンサーをしていて、でも目とか態度は変わらず不機嫌まるだしで周囲から切り離されている。ショーが終わって強引に追いかけてきたファンの男にキスを求められたのでキスをして、その状態で男の頭を簪で一突きして、その後に昼間に踊っていた車とセックスをする。

その快楽を引き摺るようにパーティの場にいた男女複数をさくさく殺していって父親も火事の現場に閉じ込めて、そのうち連続殺人犯のニュースが騒がしくなって顔も見られたり、並行してなんでか彼女のお腹が大きくなってきて、黒いオイルのような液体が自分の股や傷口から流れ始める。これはいろいろ相当やばいぞ、と幼い頃に行方不明になったまま十数年経っているAdrienという少年 - 貼り紙にあった失踪当時の顔が少し似ている - になりすますべく、駅のトイレで自分の顔をぶん殴って洗面台で自分の鼻をへし折って(ひー)、出っ張っている胸と下腹をテープでぐるぐる巻きにして女子であることを隠し、ショックで口がきけなくなっている、という設定にして賭けにでる。

Adrianの父親として現れたVincent (Vincent Lindon)は、DNAの鑑定なんていらん、こいつは間違いなくAdrianだ自分が守る、って周囲に宣言して彼女を引き取って世話を始める。Alexiaはなりすましがうまくいって世間から身を隠すことができればよいので、Vincentの態度はありがたいのだが消防団員をしている彼は明らかに別種のやばいモンスターで、日々のいろんな苦痛や苦悶を太腿への注射でなんとか凌いでいるジャンキーなのだった...

そのうち消防団員はAlexiaってどうも怪しい、って見るようになるし、Vincentの妻(Adrianの母)は簡単に彼女がフェイクであることを見抜くのだが、AlexiaにVincentのことを頼むとかいうし、あれこれ噴出してきて、もううざくなってきたVincentを殺したろか、ってなるのだがAlexiaにはどうしても彼を殺すことができないの。

最後、お腹が膨れあがってどうしようもなくなったAlexiaとそんなAlexiaの正体を見てしまったVincentは..

“Raw”と同様、いやあれ以上に捩れてそっくり返りながらのたうつ「家族」と女性の物語で、こんなのがパルムドールを獲ってしまったのだから痛快としか言いようがない。頭蓋骨に嵌め込まれたチタンの板がAlexiaにどんな変容をもたらしたのか、なんであんなことが起こるのか、なにひとつ説明されないまま、横から現れた息子を失ってどこかのなにかが壊れてしまった男とのクラッシュが物語を更に異様な方に転がしていく。Drive Their Car.

単なる人と機械(or 金属)のインターコースのお話に狂ってしまった父の情念が絡んで、結果として化け物のようなエモが絡んでのたうつ怪異小説のようになっている。思いに寄り添うことなんて到底無理だし、どう処理したらよいものか、って遠巻きに、それでも見てしまう。

これが長編デビューとなるAgathe Rousselleさんは見事だが、それ以上にVincent Lindonのごりごりノワールの狂ったオーラがすばらしい。このふたりが寄り添う絵のなんともいえないかんじときたら。

続編とかやらないかしら。ぜったいおもしろいのになる。

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