2.02.2022

[film] 刀馬旦 (1986)

1月28日、金曜日の晩、国立映画アーカイブの「香港映画発展史探求」で見ました。
『北京オペラブルース』、英語題も”Peking Opera Blues”。監督は徐克(ツイ・ハーク)。

京劇って英語だとPeking Operaで、「刀馬旦」というのは京劇で立ち回りを中心とした女性が演じる英雄の役柄、なのだそう。客席はほぼいっぱい、すばらしくおもしろかった。

1913年の辛亥革命直後、袁世凱政権下でめちゃくちゃな無政府状態になっていた北京で、お家の出入りで流出した財宝を追いかけて京劇の芝居小屋に迷いこんだ歌手のションホン(鐘楚紅 - Cherie Chung)とそこの劇団長の娘で芝居をやりたくてたまらないパナウ(草倩文 - Sally Yeb)と、海外から戻ってきて将軍の娘でありながら政権転覆を狙う組織にいる男装のチョウワン(林青霞 - Brigitte Lin)の3人が出会って、チョウワンの父将軍の金庫に収められた袁世凱失墜のカギになる書類を巡って政府側と転覆を狙うゲリラ側がじわじわどたばたやりあっていく活劇で、その活劇の真ん中に偉い連中がやってくる京劇の芝居小屋とそこで演じられる京劇 - 演目にも意味があったりしたのだろうか? - が挟まってくるの。

当然のように政権側は人もいっぱいいて悪賢くて強くできてて、反体制側の特に女性3人はチョウワンを除くと巻き込まれていい迷惑な娘たちで、その後ろにつく男子も筋肉とメガネのふたりくらいのそんなに強くない連中で、善玉は圧倒的に劣勢で、絶体絶命のなんとかしなきゃいけないところで劇的にひっくり返ったり人がびょーんて飛んでいったりが頻発してフロントとバックがぱたぱた切り替わっていくバックステージものなの。

京劇はよく知らないのだが、二十世紀の初めまで、北京では女性が公共の劇場で演技をすることが禁止されていた(なのでパナウは芝居したい、って嘆き悲しんでいる) - そんな世界の舞台の上でその役割を反転させた女性たちが華麗に舞って踊りながらその柵を含めたすべてを転覆させようと立ち回る。こんなの痛快に決まっているのに、なんでタイトルに”Blues”がつくのか、だけあんまよくわからない。

真ん中にいる女性3人が巻き込まれた事情はばらばらでなんで仲良くなれるのかわかんないし、チョウワン父娘の情はあるのかないのかよくわかんないし、男は色と金に目がなくてだらしなさすぎだし、向かいあったら取っ組み合いや撃ちあいを始めるし、すぐに泣いたり気絶したり沸騰するし、すべてが浅はかでなんも考えていないふうに転がって着地だけなるようになって(して)しまうところがすばらしくて、そういえばオープニングとエンディングで京劇のメイクをしたおじさんの顔面がぜんぶ笑ってごまかしてくれるのだった。

結構血は流れるし拷問は痛そうだし人も結構ぱたぱたと死んでいくのだが、善玉にぜったい弾は当たらないし殺されないし、全体のノリがとっても軽いので全員が大きなダンスのうねりのなかにいるように見える。危機が迫ったり山場がくるとびょんびょんびょんびょんてJohn Carpenterみたいなエレクトロが鳴り出して、人が跳ねたり飛んでったり落ちたり - 最後のびょーんの後に蜂の巣のとこなんて最高..  ああ86年だわ、って。

あとは、チョウワン - Brigitte Linの痺れるようなかっこよさ。あの衣装にあの目と声で請われたら誰だって地獄の果てまでついていきます、になるよね。

ラストも西部劇みたいでかっこよくて、そうか西部劇のサルーンがこの映画では芝居小屋だったのかー。

上映後、拍手がおこって当然のやつだったねえ。

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