12.06.2021

[theatre] La Ménagerie de verre

11月28日、日曜日の朝4時(中央ヨーロッパ時間の20時)にむっくりと起きあがってストリーミングで見ました。

パリのオデオン座の制作によるIvo van Hove演出、Isabelle Huppert主演によるTennessee Williams の『ガラスの動物園』(1944)の舞台をInternationaal Theater Amsterdamが配信したもの。

日本にも来るはずだったのが来れないことになった、のは英国でも同じで、Barbicanで上演される予定だったチケットを発売日に - Isabelleさまの上演後トークがある日のいちばんよい席のを買って待っていたのにロックダウンで延期されて、でもその程度の延期ではどうにもならなくて結局キャンセルされて、泣いた。 だからストリーミングだろうが朝の何時だろうが見れるのであれば何があっても見るさ、だったの。

2005年のブロードウェイの再演 - Jessica LangeがAmandaで、Christian SlaterがTomを演じたときのは、確か見た記憶があるのだが、細かいところの記憶がないー。

Tennessee Williams自身の自伝的な作品なので、原作が書かれた時点から10年くらい前、大恐慌の傷跡が残るセントルイスでTom Wingfield (Nahuel Pérez Biscayart - Tennessee Williamsにちょっと似たかんじ)が自分と家族の追憶の物語を語り始める。追憶の世界なのでそこは洞窟のように薄暗くて壁画のような落書きもあって、半地下の世界のよう。 いつものIvo van Hoveの舞台の、舞台を取り囲む部屋や境界によって浮かびあがらせるようなメタな仕掛けは今回はなくて、蝋燭のような光の下でホラーのように語られ、視界が狭まって逃げようがない事態や情景が広がっていくのを固唾を吞んで見守っていくかんじ。

Tomの語りに導かれて母Amanda (Isabelle Huppert)と足の悪い娘のLaura (Justine Bachelet)が登場する。父はもうとうに家を出てしまっているが、Amandaにとってはどうでもよいことのようで、自分が過去も未来もこの家の中心で、ずっとひとりで台所にいて、いろんなことを畳み掛けるようにえんえん喋りながら - あのいつものIsabelle Huppertの喋り - 自分の過去について喋ることで自らを律し立て直し、家族を外界から護り、とっくに壊れているかもしれないなにかを見つめて揺るがない。けど、だれもそれをちゃんと聞いてはいなくて、Tomは頻繁に外に出て行ってしまうし、Lauraは自分の内の世界にずっと篭ってしまっていて、全体は彼女が壁の奥に隠しているガラス細工の動物たちのありようそのまま - 壁の向こうから出されると光があたって輝くけど、へたに扱うと壊れてしまうのでそうっと暗がりにしまっておくの。こうして家全体も洞窟のなかにありー。

その緊張関係に満ちた壊れやすさがいつ、どんなふうに壊れてしまうのかはらはらしていると、外からTomの友人Jim(Cyril Gueï)が現れて、Amandaはおお張り切りでLauraに引き合わせてよいこなのだからうまくいくに決まっている、と。 実際にJimはよい人でふたりがArcade Fireの”Neighborhood #1 (Tunnels)”に合わせてダンスをするシーンとか素敵なのだが、TomもJimに対しては想いがあるようで、でもそういうのはぜんぶ、「自分には婚約者がいます」の言葉でぜんぶどこかに散ってしまう。それを受けたAmandaが次にどういうアクションに出るのか、については勿論描かれることはない。

若者らしく自分が一番さ! って外に向かって意気揚々なTomも別にあたしなんか、ってひたすら内に向かい続けるLauraもそれぞれに単純なキャラクターではないことは十分に伺えるのだが、この舞台ではそれらを遥かに超えた毒親 –なんて言えないくらいに強く複雑なうねりを見せるAmanda - Isabelle Huppert – の佇まいがすべて持っていってしまう。強くて尊大で夢見がちで何言われてもへっちゃらで見たいものしか見なくて掴みどころがなくて、そういうのがぜんぶぎりぎりの表面で外からのウィルスと接近戦をしているのが見えるのに超然としている。もちろんこんなの女優としての彼女が見せるひとつの面でしかない – ないことがありありなのに、彼女の顔を見つめるしかなくて、見ているだけでなにかが壊されながら流れていく。

アメリカ映画が伝統的に描いてきた「こわれゆく女」の源流。あるいは、Isabelle Huppertさんが好きすぎてフランスでの上映権を買ってしまった”Wanda” (1970)とか - Isabelle Huppertさんを最初に見たのは00年代にBAMでの”Wanda”の上映会でのトークで、ものすごい勢いと熱量で”Wanda”について語っていたことを思いだす。

あーでもやはり、奥に広がる洞窟を覗きこむように舞台で見たかったなー。

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