12.08.2021

[film] tick, tick...BOOM! (2021)

11月27日、土曜日の夕方、ヒューマントラスト渋谷の音のでっかいとこで見ました。
Netflixでも見れるのだが、これはシアターみたいなところで見るのがいいに決まってる、って。

ちょうどStephen Sondheimの訃報が流れてきた日で、この映画にも出てくる(劇中では俳優さんが演じているが留守電に入った声は本人の)ということなので、それもあった。一時期NYに住んでいた者からするとStephen Sondheimの名前ってものすごく頻繁に見るもので、新たなミュージカルが出るたびにレビューは彼からの影響や彼の過去作との比較で語られるし、Best & Worstもしょっちゅう編まれているし、今作の中でも彼が見ている!彼が評価してくれている!で主人公は一喜一憂していたりする。

今作でAndrew Garfieldが演じているJonathan Larsonもそういう伝説のひとりではあって、1996年の”Rent”の爆発的な成功と35歳での突然の死は、ミュージカルはまったく見ない人にも十分に聞こえてくるものだった。(”Rent”は見ていないの。公開直後はチケットまったく取れなかったし、当時の自分のプライオリティは音楽のライブ→バレエ→オペラ→映画、くらいだった。ミュージカルは11年いたのに、人のアテンドで行った2~3本くらい..)

“In the Heights” (2021) のLin-Manuel MirandaがJonathan Larsonに捧げたオマージュであり、彼の監督デビュー作でもある。プロデューサーにはBrian GrazerとRon Howardの名前がある。

1992年、East Villageの小劇場でJonathan Larson (Andrew Garfield)がバンドをバックにピアノに向かって今の自分とこれまでの自分についてまくしたてるように歌って語るステージ – これが”Rent”のひとつ前の彼の舞台作品 - ”tick, tick...BOOM!”で、この自伝的モノローグに至るまでの彼の90年前後の実生活や創作面での苦闘がステージの上とドラマの現場を切り替えながら進んでいく。

彼がずっと構想を練って温めてきた近未来ミュージカル - ”SUPERBIA”のワークショップとその成功 – これが認められて舞台化されることになれば大きな一歩 – に向けてダイナーでバイトをしながら友人たちや関係者の間を走り回って苦しんで.. という一刻一秒を争うじたばた(→タイトル)で、そこに演劇を諦めて代理店に就職した幼馴染の親友のことや、彼を含む数人がAIDSになってしまった辛さ等のエピソードが挟まって、どん詰まりのなか、自分にとっての音楽とは、ミュージカルとは、という地点にまで追いつめられていく。

そのへんの藁をも掴みたかった半径数メートルの焦りまくり繁盛記を作品にしたのが”tick, tick...BOOM!”なので、結果が万事うまくいったお話であることはわかっているし、ただの下積みキツかったけどがんばってよかったね話のように見えてしまうのかもだけど、舞台上で語られる時間がない時間がないって走り回る過去と現在に脈打つ音楽がピンポンしながら交錯していく構成と、彼の音楽の前のめりにつんのめって畳みかけるように転がって伝播していくエモの熱がすばらしい。 この波状攻撃は確かに“In the Heights”にもあったやつかも。(Jonathan Larson、バンド活動ではなくて、どうしてミュージカルにしたかったのだろう? こういう曲を書けるならバンドやっても当たった気がする)

はらはらどきどきだった”SUPERBIA”のワークショップの後で、Sondheimやその他の人たちのアドバイスから、もっと身近な題材をって、とりあえず目の前の焦りや苛立ちについて語って歌いだしたのがこれだとすると、これを幾重にも折り重ねて隣人を束ねて編んでいったのが”Rent”、なのだろうか。これを見てしまうと”Rent”って傑作になることを約束されていたような作品ではないか、って。

そしてこんなJonathan Larson像をたったひとりで走り切るように演じてしまったAndrew Garfieldのすばらしさ。この人の溜息もべそも泣き言も、ぜんぶ耳元の目の前で起こっているように感じられて、掻きむしられてしまう。器用すぎて好きに使われすぎな気がするのだが、ほんとにうまいな、って改めて。

Jonathan Larsonの部屋にNINのステッカーが貼ってあったよ。

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