12.09.2021

[film] The Power of the Dog (2021)

11月30日、火曜日の晩、池袋のシネリーブルで見ました。これもNetflixで見れるのだが、これはぜったいでっかいスクリーンで見たくて、実際に見てよかった。

今年のヴェネツィアで銀獅子賞を獲ってNYFFでもLFFでもTIFFでもかかったJane Campionの新作。原作は1967年に書かれたThomas Savageの同名小説。西部劇。

20年代のモンタナで、牧場をやっているPhil (Benedict Cumberbatch)とGeorge (Jesse Plemons)のBurbank兄弟がいる。Philは荒っぽくて汚れていて無口な見るからに西部の男タイプで、Georgeは兄には敵わないと思っているのか正反対に小ぎれいにしていて社交的なタイプで、牧童を率いて引っぱっているのは明らかにPhilで、彼は自分を育ててくれてもうこの世にはいない‘Bronco’ Henryを伝説のように想って周囲にも「彼はすごかったんだぞ」って伝えたりしている。

原野で一軒家の食堂を営む未亡人のRose (Kirsten Dunst)と一人息子のPeter (Kodi Smit-McPhee)がいて、Peterはとても賢そうだが華奢で紙でテーブル飾りのお花を作ったりしている。

そこにPhilの一行が現れて荒っぽくテーブルを囲んでPeterをからかったり、そのやりとりを見て悲しんでいるRoseを見たGeorgeは放っておけなくて彼女の傍にいるようになり、やがて彼女を自分の家に連れてきて、結婚したとPhilに告げる。これに関してPhilの対応は冷淡で、ふーんとか言いつつもピアノの練習をしているRoseがつっかえる箇所をバンジョーでさくさく弾いてみせたり、意地の悪いところを見せる。

ここまでだと、典型的な西部男のPhilが都会の社交の方に寄ろうとしているGeorge-Rose-Peterをじわじわ痛めつけて、そのせめぎあいの果てに惨劇が.. くらいかと思ってるとぜんぜん違う変態の方にうねっていくので、そのうねりの妖艶さ - からっからの大地の上に艶かしく現れるそれ - にやられる。

紙のお花をからかわれてべそをかいていたPeterは医者になる勉強をしていて野ウサギを見つけてなでなでしていたかと思えば、翌日にはその子を解剖していたり、土地のはずれで炭疽症で死んで転がっていた牛の組織を切り取っていたり、向こうの山には何がいるかわかるか?というPhilの問いにPeterはあっさり答えてしまったり、明らかに虐めやシゴキに走ると思われたPhilの目が変わってPhilとPeterの関係は驚くような化学変化を見せて親密になっていって、その反対側でRoseは孤独のなかアルコールに溺れていく。

‘Bronco’ Henryが遺した鞍を撫でて愛でるその手で牛の革を細かく割いてロープを編んでいくPhilと科学への好奇心からナイフで獣の組織をさくさく捌いていくPeterの手、そこにくっついたふたりの胴体がどこからどんなふうに絡まったのかはっきりとは語られないのだが、結末はやはり… 。 そういえば、“Bright Star” (2009)もひたすら編んでいく映画だったような。

犬の力に犬の苦痛がはびこる野蛮な地の果てで、ひとはなにに救いを求めるのか? 痛みを和らげてくれるものはなんなのか? そもそも痛みってなんなのか? などをPhil – Peter – George - Roseそれぞれの象徴的な顔とか風貌のもとに彫りだして、皮を剥いで - その疎通のとれないかんじを晒しているかのような。そして我々はいまだに哀れで汚れた犬畜生なのだとしたら、どうやって聖なるなにかに届くことができるのかできないのか、などなど。 タイトルの引用元として旧約聖書の詩編22編が引用されているのだが、獣性と聖なるもののせめぎ合いってJane Campionがずっと追っているものだと思う。

ちょっと変な、クィアな西部劇として比較できるのはいっぱいあると思うし、復讐劇のようなものとして見れば、”Stoker” (2013)なんかも思い浮かべたり。

あと、Jonny Greenwoodの音楽もすばらしい。”Phantom Thread” (2017)の頃からストリングスの使い方がものすごくよくなった気がするのだが、今回のも荒野の風でありながら内面を貫いて突っ切って吹いてくるかんじ。

Benedict Cumberbatchのなんとも言えない爬虫類のすごみのたまんないことったら。もうじき来るあれも、Tom Hollandとの間で今作みたいなことになったらおもしろいのにな。



レインコーツ本が翻訳されて、33 1/3シリーズのと同じやつかしら?と思いつつ自信がなかったので買ってみたらおなじやつだった。そしてヴィヴィエン・ゴールドマンさんの”Revenge of the She-Punks”も翻訳が出るのね。2019年に出張でNY行った時、McNally Jacksonのイベントでこの2冊の本の著者が並んでお喋りしていたなあー。

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