2.25.2020

[theatre] Endgame + Rough for Theatre II

21日、金曜日の晩、The Old Vicで見ました。

Alan CummingとDaniel Radcliffeによるベケットの2人芝居の2本立て。演出はRichard Jones、Set & CostumeはStewart Laing。
ベケット演劇をライブで見るのは初めて。最初に30分くらいの”Rough for Theatre II”、休憩を挟んで80分くらいの”Endgame”。

“Rough for Theatre II“は50年代後半にフランス語で書かれたもの。大きな窓がひとつある部屋の左右に向かい合うかたちで机が置かれていて、大きな窓のところに背中を向け片手を頭に置いた男が立ったまま固まっていて(この舞台ではでっかい人形。たぶん)、そこから飛び降りようとしているように見える。そこに官僚のA (Daniel Radcliffe) とB (Alan Cumming)が現れて彼の調書と思われるファイルを見たり彼の表情を確認したりしつつ、彼の生とか死についてあれこれ議論するの。Bはひょうきんでアトラクティブで、Aはクールで断定的で、ふたりの会話や動きは彼の飛び降り(自殺)という行為とそれがもたらすであろう結果の周りをぐるぐるするだけ(他に突然点いたり消えたりするランプとか鳥の声とか)。こんなふうに第三者が死とか生の価値や意味について裁定や評価をすることの不条理、というか胡散臭さが浮かんでくる。それは今でもふつうにあるけど、あっていいの? そういうもんなの? ふたりが天の声のように上空から議論することについては、”It’s a Wonderful Life” (1946)の冒頭が参照されていて、ああそうかも、って。

この作品は2000年のBeckett on FilmでA (Jim Norton) & B (Timothy Spall)で映像化されている。見たい。

Endgame (1957) -  『勝負の終わり』- チェスの「詰んだ」状態のこと

上の方に小さな窓がふたつある部屋にやや猫背で足を引きずる汚れた召使のClov (Daniel Radcliffe)がいて、中央の椅子に座って動かないやつの布をめくるとそれが主人のHam (Alan Cumming)でつるっぱげで目は見えなくて足は痩せこけて動けない(彼の足、棒みたいに細いと思ってよく見たら本当に棒 – つくりものだった)。Hamは喧しくて傲慢で王様で、用事があるときはホイッスルでClovを呼びつけるとClovは嫌々な様子ですっとんでくる。どうも逆らえないらしい。 他に舞台の左手にあるゴミ缶ふたつの中にはHamの両親 - Nell (Jane Horrocks)とNagg (Karl Johnson) - がいて、たまに顔を出して食べものを貰ったりする。

最初にClovが”Finished, it’s finished, nearly finished, it must be nearly finished…”って呪文のように唱えるところからも、もうこれは終わっている、終わりが見えている、どん詰まりの世界のことなので、そういうものとして眺めてみれば、そうだよね、しかない。

屈辱的で出口なしの主従関係があって逃げられず、親はゴミ箱に捨てられ、食べ物も痛み止め薬もなくなり、その先は↑の“Rough for Theatre II“みたいに窓からジャンプするしかなさそう、そんな世界でどうやって生きるの? - いやもうこれ終わっているやつだから、っていうループが繰り返されて、どんな問いも企てもこの循環(ゲーム)に飲みこまれていく、そういう世界像にどう立ち向かったらよいのか? -  いやなんも。 なのだが、最後のところは少しだけ、おや? ってなったりする。ゲームという関係性の放棄なのか、ゲームを成立させている世界そのものからの離脱なのか。 

どちらの劇もふたりの会話の切り返しがドライブしていくコメディで、部分だけ切り取るとコンビの漫談のようにも見えて、たまに生じる「…」の間に無間の闇とかがぽっかり、のような。そういう紙一重の宇宙を軽妙に綱渡りするAlan Cummingが芸達者なのはわかっていたが、Daniel Radcliffeのしなやかな鈍重さ、みたいな狙いすました演技もすばらしかった。リズムが見事なハシゴ芸とか股ぐらに粉を撒くところとかのおもしろさ。

シンプルであればあるほど今の我々の世界に近づいてくるように見える遠近法の魔法、なんて難しいこと言わなくても、ここで展開されたふたつの世界はあまりにも近くて眩暈がした。ベケットおもしろい。もっと見たい。

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