2.20.2020

[music] Max Richter "Voices"

18日、火曜日の晩、Barbicanで見て聴いた。
発売になったのがずいぶん昔で、チケット買ったのをすっかり忘れていて、Barbicanからの開演時間連絡メールで数日前に気付いた。あぶなかった。

演目はふたつで、最初に”Infra” (2008)、休憩を挟んで”Voices” (2020) – Barbicanからの委託を受けて製作された新作で、これがワールドプレミア(正確には2日間公演の初日である前日 - 17日か)となる。 つい7日前に出来あがったばかりだそう。

“Infra”は、2018年のこの場所で演奏された際にも聴いていて2度目。  2008年、Royal Balletで振付Wayne McGregor、ヴィジュアルJulian Opieで披露されたバレエ用のピース。でもそもそもは2005年のロンドン地下鉄の爆破テロをきっかけに作られたtravelling – commuting musicで、音楽的にはシューベルトが濃く入っていると演奏前に語っていた。演奏は弦が5名にRichterのKey。今回の演奏者はプレミアの時、レコーディングの時のメンバーなので最強、とのこと。

シューベルト。 と言われてもはぁ..  しかないので音楽のところはあまり語れないのだが、Max Richterは911の頃から始まってこれまでずっと政治的なトピックやテーマに取り組んでいて、それって、世界はどんどんひどく悲惨になっていないか、という問いの周辺を回っている。自分が映画館で見る新作映画の音楽がMax Richterのだった、ことが多いのは偶然ではない気がする。

そして今回初演となる”Voices”。オーケストラの構成はヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ24、ダブルベース12、ハープ 1、フロントにソロのヴァイオリン、ソロのソプラノ、ナレーター、後ろに12名のコーラス、そしてMax Richter自身によるKey。

題材として彼が取りあげたのは国連のDeclaration of Human Rights - 『世界人権宣言』で、これについて彼は次のように語る(デジタルパンフより)

"It’s easy these days to feel hopeless or angry, as people on all sides do, and though the Declaration isn’t a perfect document, it holds out the possibility of a better world. A wish fulfilment of what can be, and of what we, in some imperfect way, have had."

最初に宣言を読みあげるEleanor Rooseveltの声 (1948) がテープで流れ、その後はナレーターが - ナレーターへのインストラクションは初めてこの星に降りたったエイリアンのように – 彼が音楽を担当した映画”Arrival” (2016)を思いだす – ゆっくりと淡々に。更にクラウド経由で募った世界中のいろんな言語による朗読の声(日本語のは女性の声だった)が会場のいろんな場所からランダムに放たれ、重ねられていく。

「宣言」のナレーションを聞くとさあ、本当にいいの。当たり前のことしか言っていないんだよ、なのになんでこんなにも離れてしまったのか、って。なにがこんなに隔たって/隔ててしまったのか、って。 憲法変えたいのならこれでいいじゃん。(いまの日本は笑っちゃうくらい見事に、ぜんぶ逆を行っているね)

音楽は彼のこれまでの作品と比べるとメロもテンポもややシンプルで、でも技術的には相当いろんなことを突っこんでかき混ぜて、内側のあらゆるレイヤーで大量の小競り合いとか内紛が重ねられていて出口なし、みたいなかんじで、そこに淡々とした「宣言」が被せられてはっとする、ような。 このぐちゃぐちゃが「構造」に起因するのかどこかからのなにかしらの「力」によるものなのか、なにをどうやったらこの雲みたいのを…  とかいろいろ考えさせられる。

そういうことがあるので、わたしにとっては彼がクラシックだろうが現代音楽作家だろうが映画音楽作家だろうがどうでもよくて、できるだけライブに通って聴くの。

これとおなじことをアバンギャルドメタルの様式でやってもおもしろい、はず。(もうだれかやっていたりして)

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