2.07.2024

[film] The Zone of Interest (2023)

2月1日、木曜日の晩、BFI IMAXで見ました。『関心領域』。関心なのか利益なのか。

上映後に監督のJonathan Glazer + スタッフ2名のQ&Aがあった。モデレーターはあらびっくりのAlfonso Cuaron(映画べた褒め)。封切にあわせて、ICAの方では音楽担当のMica LeviとのQ&Aもあって、そっちの方が興味あったのだがあそこはスクリーン小さいしなー、って。

Martin Amisの同名小説(2014)を緩く原作としたもので、昨年のカンヌではGrand PrixとFIPRESCI Prizeを受賞している。

ものすごい終末の腐れた光景が見れるかというと、そんなことはなくて、そういうのを期待すると綺麗で退屈でつまんないかも。予告でかかった”Civil War” (2024)なんかのがすごそうだった。

同じJonathan Glazerの“Under the Skin” (2013)の皮膚の2層くらい下部になにかがくいこんで、音と一緒になってぬたくって抜けられなくなってどちらも窒息しそうに剥がされながら潰されていくあの閉ざされた怖さはあまり来ない。でも後からものすごいのが生理的なのも含めてじわじわとやってくる。

1943年、ナチスの司令官Rudolf Höss (Christian Friedel - 実在した人物1901-1947)は、勤務先であるアウシュビッツの収容所のすぐ傍に建てたきれいな住宅に妻のHedwig (Sandra Hüller)と5人の子供たちと暮らしている。家の庭の先 - 向こう側からは煙が立ちのぼり、たまに悲鳴や怒声のようなものが聞こえてきたりするものの、Rudolfは夕暮れ時にタバコを吸って寛いで、Hedwigは庭仕事でお花を咲かせたり何人かいる召使に指示をだして、たまにどこかから箱に入った婦人服が送られてくるとそれを皆で分けたり、高級そうな毛皮や宝石が来るとそれはHedwig自身が身に着けて鏡に向かってうっとりしたりしている。

Rudolfが子供たちと川遊びをしていると頭蓋骨のようなものが足に引っかかってきて、大慌てで子供たちを川からあげて入念に洗い流したりして、気をつけてほしい、とか本部にクレームの手紙を書く。

今の世であれば、ほぼ「ふつう」と言ってよい、どこにでもある家族の、家庭の風景と変わらない - 夫は仕事に、妻は家事と育児に(with 召使)、子供たちは子供たちの遊びに - という分担と関心のありようは揺るがないし、その位置でそれぞれがそこでの暮らしを楽しんでいる。普段の会話のなかに隣の建物群、そこに誰がいて日々何が行われているのか、は出てこないし、勿論知っているけどわざわざ出す必要があろうか、気にするほうがおかしいし、という態度。

その反対側というのか別次元というのか、反転された夜の、夢のような世界では畑に食べ物を撒いている子供がいたりする。暗視カメラに映る夜の獣のような蠢き。

やがてRudolfは別の部署への転勤が決まって、その家を引き払わなければならなくなると、Hedwigは猛烈に反対して、自分と子供たちはここに残る - 残れるように軍に訴えて、と。このすべてを吹き飛ばすような傲慢さ、それを言わせてしまう何か、がすごい。とってもありそうで。

なぜこんなことが許されているのか、許されていたのかの考察も裁きも、その考察を促す描写も一切ない。圧倒的な落ち着きと揺るがなさでもってHössの一家はそこに確かにあり、その安定のもたらす確信が毎週数千人のユダヤ人を着実にガス室に送って焼いて灰にして、それをもっと効率的に実行する方法を考えるのも仕事で、その目標や数値を評価する人たちがいた - そういう人たちは、こんなふうに。

そう、こんなふうに、まるで今の/かつての我々とおなじようだよね。ほら、という風景を見事なカメラとサウンドでぶん殴るように示して、最後に。

そしてこれはいまの我々の「関心領域」の、そのありようと何ひとつ変わるところがないの。偶然としか思えないようなガザの虐殺に対する態度、性暴力に対する、政治腐敗に対する、ぜんぶこんなふうに傍観者=加害者となってなんでかみんなふんぞり返っている。そのとてつもない圧の恐ろしさ。「言ってもしょうがない」 - これもまた関心領域のひとつのー。

Mica Leviの音は、これまでのようにうねって暴れ回るようなことはなく、太線の重ねられた分厚い壁を一枚ぶおおーんと置いておく、それだけ。ものすごく怒っているかんじ。

上映後のQ&Aは、Alfonso Cuaronの絶賛の言葉をうんうん、て聞いているうちに落ちてて、目が覚めたら終わっていた…  見て聞けばわかる映画だから。

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