2.24.2024

[film] Occupied City (2023)

2月18日、日曜日の午後、Barbican Cinemaで見ました。
A24制作&配給、Steve McQueen監督による4時間26分のドキュメンタリー。
(淡々と進んでいくので休憩ないかも… とこわくなったが15分のがあった)

ロンドンではこのひとつ前の週末にいくつかのシアターで一回だけ上映されて、監督のQ&Aなども行われていたのだが、気がついた時にはどこのもSold-Outしていて、残念だったのをようやく。

原作は監督の妻Bianca Stigterが母国語であるオランダ語で書いた”Atlas of an Occupied City, Amsterdam 1940-1945”、これをMelanie Hyamsが英語で淡々と読みあげるかたちでナレーションをつけていく。

1940年に始まったアムステルダムへのナチスの侵攻、そのひとつひとつの日々と場所(番地まで)と具体的な出来事 - 誰が何をしてどうなった - を語る。当時の、過去のアーカイブや記録映像、ナチスのイメージなどは一切出てこない。画面に映しだされるのは、それ – Occupation が起こった場所の現在の姿とそこで暮らしたり遊んだり仕事したりする人々の暮らし、いまがどんなふうになっているか、だけ。

その今のありようは、被さってくる過去の出来事の悲惨さ、重さによって見方というか色合いが変わる。
ここで処刑が行われた、その場で銃殺された、その場で自殺した、逮捕され連行された(行先はほぼアウシュビッツ等の収容所)、それが起こった場所で、いまの子供たちが笑ったり遊んだり家族が寛いだりしている。その平和の尊さ、有難さを思う - そういう映画ではないの(そう思いたければ思ってもよいけど)。微笑ましい暖かさはやってこなくて、なにがここの市民をここで語られているような異次元としか思えない事態や事実に追いこんでいったのか、見ていけばいくほど寒々しく、わからなくなってくる。

語られる場所が映されているのは夫々3~4分だろうか、ものすごく熱いなにか冷たいなにか怖いなにか、が映っているわけではない、注意深く計算したり編集したりはしているのだろうが、平時平常のなんの変哲もない画面 – でも/だから飽きることはない – を作ることに注力しているように見える。それが連なり重ねられ、並べば並ぶほど「平時」の謎が深まっていくかのような。撮られたのがコロナ禍のロックダウンだった、というのも「平時」のありようを強調しているかのよう。

侵攻してきたナチスが悪い。それは勿論いうまでもないことなのだが、秘密警察が置かれて密告者がいて(アンネ・フランクの件は勿論語られる、でも少しだけ)、彼らは今も残っている建物のあちこちに市民としてふつうに暮らしていた(もう現存していな建物については、ナレーションの終わりに“Demolished.”と簡潔に付け加えられる)。占領は一気に、爆撃のように数週間で起こったのではない。原作のタイトルにあるように1940-1945の間、毎日のように人々は逮捕され連行されて散り散りになって時間をかけていなくなり、殺されていった。いまがそうならない、そうなっていない保証がどこにあろうか。

アムステルダムは3回くらいしか行ったことはないけど、とてつもない美術館があり、最高の音楽ホールがあり、チューリップが咲いてて、ニシンがおいしくて、運河のほとりを散歩していくだけで楽しいし、冬にスケートをしたり橇で滑ったりするシーンとか、ブリューゲルの絵のまま、だし。(もちろん、暗い方では世界的に名の知れた赤線地帯もあるし)。そんな町でだって、起こることは起こったのだ、ほら…

Steve McQueenが”Small Axe” (2020)のアンソロジードラマで描いたような市民の悲劇(だけではなかったけど)はここの戦時下では茶飯事だったのではないか。

いくつか、町並みや建物から離れて過去の植民地主義と奴隷制に対する謝罪声明の式典(日本のインドネシアの件も言及される)、亡くなったジャーナリストの追悼式、気候変動や環境危機に対するデモの映像も流れる。ここでは過去からの連なりとしてある現在 – 切り離されてあるものではないことも示される。

ひとつの町の記録・歴史って、これだけ静かな映像と語りだけでも、ここまでダイナミックに力強く渦を巻くイメージを生むことができるのだ、って。濱口竜介の『なみのおと』(2010)からの3作とか王兵のと同じくらいの強いものを感じた。

あと、Occupyする側にどう見えていたのか、その目線についてはちょうど今、(フィクションだけど)”Zone of Interest”を見ることができる。同時上映してもおもしろいかも。へとへとになるだろうけど。

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