8.24.2023

[film] Passages (2023)

8月18日、金曜日の夕方、Lincoln Center内のElinor Bunin Munroe Film Centerで見ました。
Metropolitan Museum of Artからバスで西に渡って南に降りる。これだけで楽しくてしょうがない。

できれば古いWalter Reade Theatreの方を再訪したかった – ここではPTAの”Boogie Nights” (1997)の70mm版上映をやっていた。すごく見たい。けど、時間がないんだから文句言わないしょうがない。
あと、次回の予告でやっていた特集 - ”Korean Cinema’s Golden Decade: The 1960s” - おもしろそうだった。これもすごく見たい。

“Oppenheimer”のような大作じゃない新作もなんか見たいな、って、でも時間もないので候補はほぼこれ1本、だった。Ira Sachsがパリで撮った新作。脚本は“Love is Strange” (2014)と同じくIra SachsとMauricio Zachariasとの共同。

冒頭、スクリーンにIra Sachsからの短い挨拶動画が流れて、3人のすばらしい俳優たち、これに尽きると。そうだよね、しかなかった。Franz RogowskiとBen Whishawが向かいあっているポスターだけでとんでもない臭いが。

Tomas (Franz Rogowski)は映画監督で、パリで映画を撮影していて(その映画のタイトルが”Passages”なのだが、この映画がこの後に大きくフォーカスされることはない)、俳優に対する演技指導も暴力的ではなくて辛抱強く的確にやっているかんじ。そんな彼が撮影現場を出て自転車をこいでパリの街を走っていく、そのクローズアップだけで、この人の身体の動きのとんでもないことがわかる。作中では肌にぴっちり張りついたどぎついめの服で登場して - なんか似合っているのでぜんぜんOKなのだが、Franz Rogowskiが誰かとハグしたときの背中の羽のような動き – こないだの『大いなる自由』(2021)にもあった - だけでも、十分見る価値あると思う。

彼は印刷屋に勤務するMartin (Ben Whishaw)と結婚していて同じアパートの部屋に暮らして、でもバーで出会った小学校で先生をしているAgathe (Adèle Exarchopoulos)とダンスしてそのまま親密になって、Martinのところに帰ってもそれを隠そうとはしなくて、前半はTomasとの関係を深めていくAgathe、Tomasから離れて冷めてこわばっていくMartinの様子が描かれ、その上に映画の仕事が被さって、忙しいのか自身の勝手な都合でAgatheのところに泊まったり、Martinのところに戻ったりしていくTomasがいて、どちらもそれが彼だからー のように諦められてて、Tomasはそれに甘えて好きにさせて貰っているような。

そんな複数の家の間の出たり入ったり追いだされたりを繰り返したのち、もう一緒には暮らせない、ってTomasはMartinのアパートを出てAgatheのところに身を寄せ、やがて妊娠したAgatheとは結婚の話もでてきて彼女の両親と会うことになるのだが、かっちり堅めの彼女の両親は、①時間に遅れて、②すごくやくざな恰好で現れて、③そのうちドイツに帰ってしまうかもしれないというTomasにおろおろして、そんなホームドラマ展開にうんざりしたTomasはMartinのところに戻ろうとするが、彼はもう作家のAmad (Erwan Kepoa Falé)と付きあっていてよりは戻せそうになくて、そんなTomasを見たAgatheはこりゃだめだ、って彼との間の子を堕してしまい...  というドラマとしては大昔からありそうな三角 or 四角関係のどろどろを描いたものなのだが、それをこの3人 – の身体と声が演じるとここまで深くおもしろい(ややおそろしい)ものになってしまうのか、と。

Tomasのアーティスト(映画人?)にありがちな不遜さ傲慢さ、Martinの生真面目な頑固さ、Agatheのしなやかな弾力、これらがにじり寄ったりぶつかったりハグしたりキスしたりだけでなくて、3人の - 男と男、男と女それぞれのセックスシーンが結構長めにあって – ご近所から来たと思われるおばさんたちがきゃーきゃー騒がしかった – その交尾、としか言いようのない変な具合に絡まったり固まったり、それぞれの身体をパサージュのように通り抜けているようで、その背骨とか脚とか含めて変な生物だねえ、というのがじみじみくるのと、Franz Rogowskiの、Ben Whishawの、Adèle Exarchopoulosの、それぞれの声、声の出し方って、それが彼らの演じることの根幹にあるように見えて、それが震わせる肉の強さも切なさもぜんぶ露わになっていて、なんてすごいことだろうか、と思った。

そして、ラストのTomasの自転車の走りときたら…

エンドロールのThanksにはOlivier Assayas とかKelly Reichardt とかBette Gordonとか。

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