11.18.2021

[film] 花籠の歌 (1937)

11月9日、火曜日の夕方、国立映画アーカイブの五所平之助特集で見ました。

最初に『花よりだんご [スタヂオFのお花見]』という10分程の短編。本編と同じ35年頃に、銀座アパートにあったスタヂオFのみんなでお花見に行った際の様子を8mmで撮って繋いだもの。音なし。五所や成瀬をはじめ有名な人たちがいっぱい映っているようなのだが、成瀬以外の顔とかはあまりよくわからず。(お花見なんてだいたいそうだけど)楽しそうでいいなー、くらい。

花籠の歌 - 監督のクレジットは「平之助ごしょ」。
銀座の裏通りにある(ありそうなー)とんかつ屋「港屋」は、敬造(河村黎吉)と看板娘の洋子(田中絹代)ががんばっていて、厨房にいる李さん(徳大寺伸)はとんかつを揚げながらずっと洋子のことを想っているのだがいつも空回りしてばかりで、彼のことを片隅で想っているのは女中のおてる(出雲八重子)の方なのにこっちも空振りばかりで。店には常連の学生堀田(笠智衆)と小野(佐野周二)がいつもやってきてうだうだしていて、結局李さんの想いは実らず(ここの彼の痛みだけがやや生々しい)に気がつけば小野が洋子とくっついて(..つまりおそらく田中絹代は小野洋子に?)ふたりで厨房でがんばっている。

というところに洋子の妹の(まだ小学生くらいの)高峰秀子とか、小野の周囲で起こったホステスの殺人事件で警察がやってきたりとかがいろいろ絡んでいくものの、基本はケセラセラで、最後にはもうじきとんかつ屋をやめてすき焼き屋にするぞ、人がいっぱい来るからなぁ、って宣言するの(幻の1940年東京オリンピック..)。

例によってなにも考えていないふうの河村黎吉となにごとも明るい方しか見ようとしない田中絹代のコンビネーションは最強で、いったい佐野周二のどこをどう素敵と思ったのか(例えば笠智衆と比べて)、なんで結婚するに至ったのか、式の様子はどんなだったのか等、あまりわかんないまま - 折々のスナップショットを繋いでいるようなかんじで、彼がそのまま川の向こうに消えたって気づかないのではないか、とか。

窓から見える銀座のネオン(明治のチョコレートとか)を含む夜景が素敵で、何度か登場人物たちの「銀座はいいなあ」っていう台詞が聞こえたりするのだが彼らがそう言ったときの本当にそうだねえ、ってそれらの夜景が眼前に迫ってくるかんじ。五所の映画に出てくる風景って、伊豆でも小渕沢でも銀座でも、登場人物たちの心象とか出来事に左右されずにずっとあって、そんなふうにあることによってドラマがどんなに揺れてもブレてもだいじょうぶな気がしたり。

今回は誰かのでっかい落とし穴とか困った修羅場が登場するわけでもなく、全体に朗らかな雰囲気 - 「花籠」だし - なので銀座の夜景をバックにしたミュージカルにしたらすばらしいものになったに違いない。すでに半分くらい頭のなかではそんなふうに音楽が流れていたり、会話の運びの落語のように転がっていく楽しさとか。

あと、調理したり食べたりするシーンはそんなに出てこないのに、「ひれかつ」とか「かきフライ」っていう札が掛かっていて、カウンターの奥でなにかやっているのが見えるだけでとんかつ食べたくなる。これは映画の魔法の一種と呼ぶべき何かかもしれなくて、とんかつが出てくる映画にそんな悪いものはないのもそういうことかも。
 

ここだけじゃなくて田中絹代がすばらしいと思うので鎌倉の川喜多映画記念館に行って『田中絹代 - 女優として、監督として』の展示を見て、23日の映画のチケットを取った(オンラインでは取れないから)。田中に宛てた五所の弔辞とか手紙も展示されているので興味があるひとは是非。 鎌倉のあの通り、初めて行ったのだがすごいのねー。

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