7.24.2020

[film] Radioactive (2019)

15日、水曜日の晩、Curzon Home Cinemaで見ました。3月の公開とほぼ同時にLockdownをくらってしまった不幸な作品。 地下鉄の駅にはまだこのポスターが結構貼ったままになっていたり。

“Persepolis” (2007)を監督したMarjane Satrapiさんによる英国映画。Marie Skłodowska Curie(キュリー夫人)の評伝映画で、原作はLauren Rednissさんによるグラフィック・ノベル - “Radioactive: Marie & Pierre Curie: A Tale of Love and Fallout''。

1934年のパリで倒れて病院に運ばれる途中のMarie Skłodowska Curie (Rosamund Pike)がいて、彼女の脳裏に去来していくのは…  と、舞台は1893年のパリに移って、そこで研究生活を始めた彼女が大学の研究室に十分な環境と待遇を貰えなくて腐っているところにPierre (Sam Riley)が寄ってくるのでなによあんた、とか初めは反発しながらも同じ科学を愛する共同研究者として仲良くなって、やがてふたりは結婚して娘も生まれて、1903年にはノーベル物理学賞を貰う。のだが最初に名前が出ていたのがPierreだったのでMarieは怒ってストックホルムには行かなくて、でも受賞したことで研究には集中できるようになって、そうしたらPierreが馬車に轢かれて亡くなってしまう。

その後には年下のPaul Langevin (Aneurin Barnard)との不倫とか、そのスキャンダルとポーランド人であることを叩く攻撃とかいろいろあって、でも2度目のノーベル賞を受賞して、今度はストックホルムに行って、パリ大学初の女性教授となり、娘の Irene (Anya Taylor-Joy)と第一次世界大戦の前線にX線装置を持ち込んで救護活動をしたり..  とにかくどこまでも強くて負けない。

彼女の回想の合間に1957年のクリーブランドでX線治療を受ける子供、1945年のヒロシマでの原爆、1961年のネヴァダでの核実験、1986年のチェルノブイリでの原発事故の映像(どれもニュース映像ではない)が挟みこまれる。彼女の科学的成果が実社会にもたらした影響はこんなにも、という。

科学的発見と、それを応用した技術革新と、その技術の社会への適用と拡がりをわかりやすい単線で結んでしまうことには慎重であるべき、と思う反対側で、そういうのを避けて社会の進歩を複線の雲のように覆ってしまうことで生じる御都合主義的な曲解、隠蔽に改竄が生じることもわかる(最近は特に。こと女性になると)。この映画ではそういったことを踏まえた上でMarieの物語の線上に敢えてこれらを挿入している。もしMarieが生きていたら原爆やチェルノブイリや福島をどう見ただろうか、と。

近代のエピソードを挟んだことについては、賛否あるところだと思う。Marieに降りかかる困難と乗り越える強い意志を軸に波乱万丈の人生を描く、”Marie Skłodowska Curie”というタイトルの女性映画にすることもできたはずだ。 けど、この映画はそうはしなかった。 彼女が発見した”Radioactive” - 放射性の - という形容詞を看板にもってきた。 彼女の辛苦が切り開いた地平を今の我々の社会と、それが抱え込んでしまった危うさも込みで生々しく繋いで、現在進行形の、当事者の物語として語ること、読むこと。 なぜそうする必要があるのか、は言うまでもないし、それでMarieの像が歪むことなんてないはず。

(これでまたしても邦題とポスターをお花畑にしたら許さないから。国連とノーベル財団に訴えるから)

彼女が生涯をかけて没頭した物理化学の知識がなくても見れるけど、なぜ彼女がそこまで熱中したのか、なにが彼女をそんなに強くしたのか、っていうその底に科学そのものの魅力があることは確かだと思うので、そこら辺はもう少し説明してもよかったのでは、とか。知りたくなると思うし。

Rosamund Pikeのすばらしさについては言うまでもない。不屈の主人公を演じるときのこの人の絶対に負けないかんじ - 特に戦場に突っ立ったときに絵になるのって、この人かCharlize Theronか、ていうくらいに強くてかっこいい。

娘のIreneを演じたAnya Taylor-Joyさんは、こないだの”Emma.” (2020)でEmmaを演じていて、Rosamund Pikeさんは”Pride & Prejudice” (2005)でJane Bennetを演じているので、ふたりのJane Austen女優が第一次大戦の戦場に立つ、という光景を見ることができる。ついでにいうと、Pierre役のSam Rileyは”Pride and Prejudice and Zombies” (2016)でMr. Darcyを..  ほんとどうでもいいけど。  これでMarie CurieがJane Austenを読んでいたりしたらー。

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