12.30.2015

[film] Trois souvenirs de ma jeunesse : nos arcadies (2015)

23日の昼、渋谷で見ました。公開されてすぐにでも見たかった。
「あの頃エッフェル塔の下で」 or 「僕の青春の三つの思い出 - 僕らのアルカディア」。
英語題は"My Golden Days"。

王道の青春恋愛ドラマ、として見ることもできるけど、それだけではない、ものすごい裾野ひろがりをもったでっかい作品。
今年はシルス・マリアといいこれ(アルカディア=理想郷)といい、スケールのでっかい仏映画がいっぱい。

もう潮時だからさ、と駐在していた異国からフランスに帰国しようとしたPaul Dédalus (Mathieu Amalric)は、出国時に同じパスポート、IDを持った別人がいる、と止められて、その取り調べのなかで彼はいろんなこと - 青春の三つの思い出 - を語り始める。

家族 - 特に母親との葛藤や違和 - 彼女の自殺のエピソードがあり、やがて家を出て国外を旅するようになって国や民族の違いによる隔たりを強く感じる局面が多々出てきて、その流れでウクライナのユダヤ人青年の亡命を助けるために自分のパスポートを差し出すエピソードがあり - ここまでで彼の身元は自分ではなく誰のものでもない、アイデンティティ不詳の孤児になっている - 最後のエピソードでEsther (Lou Roy-Lecollinet)との身を焦がすような激しい恋があって、ここで彼はいったん、完璧に死ぬ - 『そして僕は恋をする』 にあったように - 別の位相のはなしだけど。

Arnaud Desplechinの前作 "Jimmy P." (2013) - 『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』 - でもMathieu Amalricは人類学者(民族精神医学者、だっけ?)の役で、今回も人類学者であることはおそらく偶然ではなくて、人類学ていうのは、人類(あるいはある民族)にとっての普遍性や理想郷(あるいは地獄、あるいは死)のイメージは、どこから、どのように形成され頭のなかで構造化されているのかを探っていく学問でもある。
それって「心に茨を持つ少年」だった彼(当局から尋問を受ける彼は患者のようでもある)が必然的に向かう魂のサバイバルの旅、だったように思える。 (少なくとも探偵のイメージとはちがう、よね)

そして映画の大部を占めるEstherとの出会いと恋愛 - 時代は80年代初 - 世界は丸ごと俺らのものであり、同時にこんな世界なくなっちまえ、と誰もが思っていて、100%の女の子の出現を頑なに信じているやつらがいて、とうぜんのように構造人類学だってポストうんたらだって、十分に流行っていて、それらの学問はそういう浮ついた世界の海図としてしっかり機能していた。 

Marine Girls の“He got the girl”があって、Specialsの"I can’t stand it”があって (RIP John Bradbury..)、The Jamの”Carnation”(”The Gift”のジャケットが一瞬映った?)があって、The Beatの"Save it for later"があって、Special AKA “What I like most about you is your girlfriend”があって、そういう時代よ。 半端な語りかたをするくらいなら、頼むからなにも言わんで引っ込んでてほしい、そういう時代の。
(そういえば『そして僕は恋をする』の音楽はリアル90年代だったねえ。P.J. Harveyとか)

で、そういう時代の中長距離の恋愛 - 完璧なかたちで成り立たないのであればそんなもんは壊してしまえ - のなか、やり取りされていく夥しい量の手紙(チャットもSNSもないからね)、その手紙の紙の肌理、インクのしみ、なにもかも愛おしくて紙を抱いて死にたくなって、実際になんどでも死んでほんとに前に進まない、そういう世界。 それはそのときの、当事者ふたりだけの世界のことで、それを綴ることができるのは、彼がしんでいる or 生と死の緩衝地帯にいるからで、でもとにかくそんなことよりも、このときのPaulとEsterを演じるふたりの、恋愛の渦中にあるふたりの(Quentin DolmaireとLou Roy-Lecollinetのふたりの)すばらしさを見てほしい。 恋愛のこと以外いっさい考えていないふたりってこんなふうになるんだって、言葉を失って気を失って目覚めたくなくなるくらいすごいから。

Desplechinて、こんなふうな熱病状態 - 前作でいうと「魂をケガしている」ひとを描くのがほんとうにうまい。
熱病状態で走りまわっている状態がふつうで、熱病状態にあるひとのむき出しの強さと弱さを表象する人物像(の集成)がPaul Dédalusで、それを理想的なかたちで体現できるのがMathieu Amalricさんなんだろうな。

あと3回くらい見たい。 彼らの恋 - 熱病は確実に伝染する。

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