1.31.2015

[film] National Gallery (2014)

18日の日曜日の午前、ぶんかむらで見ました。げきこみ。まあ、そうか。

Frederick WisemanがロンドンのNational Galleryを撮る。
そんなのおもしろいに決まっている、のだが、期待をはるかに超えて、おもしろさが渦を巻いて、あの美術館にいるときの「ああ時間がないのに見たい絵はこんなに」の焦燥が蘇ってしぬかと思った。180分? ぜんぜんたんない。

通常のWiseman作品であれば、Galleryで仕事をする人々いろいろとか、Galleryでの仕事あれこれ、とか、その仕事場で巻き起こるいろんな出来事とか、そういうのにフォーカスしていくはずなのだが、Galleryで絵を案内して語る人々、その眼や言葉を通して、その先にある絵画、美術館の光のなかに置かれた絵画と、場合によってはそこに描かれたヨーロッパの17世紀とか19世紀の世界にまで踏み込んでいく。 その地点から、その世界に没入している現代の人々の姿を浮かびあがらせる。

過去の世界に遡らない、時制フリーであるがゆえに語りうるいまここの垂直方向のありようを、そのあるいみ定常的な、普遍的な仕事の形を表に出す、というのがWisemanの映画の世界なのだと思っていた。 が、絵について語るひとの語りの豊かさおもしろさが絵の世界に点滅する光、彷徨える影、生々しい魂の交錯、などなどを語り、そこにもうひとつの像をつくるの。 絵を見つめる人、絵を模写する人、絵を語る人、絵を踊る人、それぞれの美しさ、そして絵のフレーム - そこに重なる人の像 - それを包みとる映画のフレーム、この投射の重なりと連なりの美しさに気付いたとき、この映画は実にみごとに映画になった。

そしてNational Galleryはそういうのが頻発する地雷原みたいなところなの。館員が館内に地雷を撒いているの。

こういうふうにして例えば、Camille Pissarroの”The Boulevard Montmartre at Night” (1897)が、Peter Paul Rubensの”Samson and Delilah” (1609-10) が、Rembrandtの”Portrait of Frederick Rihel on Horseback” (1663)が、その表面と背後にあるなにかが語られる。 美術の授業で散々やったような内容も一部あったけど、なんど聞いても言葉の遷移が眼の裏側に滲みていく爽快さは変わらない。

あとは特集展示の場で起こるマジックと、そのとんでもなさ。
映画で紹介された展示のいくつかは、幸運なことに現地で見ることができた。(このログのどっかにある、はず)

・”Vermeer and Music: The Art of Love and Leisure” (26 June – 8 September 2013) とか
・”Turner Inspired: In the Light of Claude” (14 March – 5 June 2012) とか
・”Leonardo da Vinci: Painter at the Court of Milan” (9 November 2011 – 5 February 2012) とか。

見れていないのは、
・”Metamorphosis: Titian - a unique collaboration with The Royal Ballet” か。

なかでもda Vinciのは2011年12月17日、映画にあったみたいにぶるぶる震えながら2時間並んで、映画にあったみたいに、絵画にぼこぼこにうちのめされた。
映画の中でも館員のひとが言っていたが、da Vinciの絵画が一箇所に纏まることで、あそこには尋常ではない空気が溢れかえって、見ているひとたちもみんな黙って画の表面を追っていた。とくに前と後ろに切り返しで置かれた『岩窟の聖母』の2バージョンの圧迫感、強さときたら。 ぜんぜん好きな表現ではないが、「da Vinciの魂」としか言いようのないものが、あの場所には展示されていて、それはどんなTVでも映画でもデジタルアーカイブでも再現できるなんかではないとおもった。

”Turner Inspired: In the Light of Claude”もTurnerが魅せられた金縛りになった薄暮の、あの圧倒的な光の霧に会場全体が包まれているかのようだった。 (ああ、Tateの”Late Turner”、見たかったよう)

というわけで、この映画に関してはWiseman先生えらい、というよりはNational Galleryえらい、なのだった。 これと比べると(比べようもないけど)日本の映画興行とアート興行にはほんと失望と絶望しかないわ。

“At Berkeley” (2013) - 244分 - もはやくみたいよう。

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