4.22.2024

[film] El espíritu de la colmena (1973)

4月13日、土曜日の夕方、BFI SouthbankのVíctor Erice特集で見ました。

BFI Southbankの一番大きいシアター、NFT1が改修工事でしばらくクローズになっいて、4つあるシアターが3つになり、その影響なのか4月からの特集プログラムが取りにくくて困る。これも直前までSold out印がついていた。

英語題は”The Spirit of the Beehive”、邦題は『ミツバチのささやき』。 日本の公開時にシネ・ヴィヴァンで見て、最初にDVD化された時にもすぐ買って、でもなんかもったいなくて開封してない。

Víctor Ericeのデビュー作で、これはものすごい1本で、どうものすごいかと言うと、デビュー作にその作家のすべてが込められているというのが本当だとしたら、ここには彼が映画を通して語ろうと思った何かが、子供が目の前に広がる世界まるごとを - その誤解も妄信も畏れも込みで - 飲みこもうとするかのようにぜんぶフィルムの上に広げられているから。ミツバチの群れが女王蜂のためだろうがなんだろうが、とにかく花に押し寄せて輝ける花粉の粒をかっさらってくる勢いで箱の中を蜜の光で満たそうとしているかのようで、実際にそうなっていると思うから。

学校に通うまだ小さな姉妹がいて、養蜂をしている父と母と古い家に住んでいて、村に巡回の映画がやってきて、それはフランケンシュタインの映画で、平原が広がって遠くには打ち捨てられた小屋があって、線路があって列車が走っていて、手紙のやりとりがあって、まだ内戦は続いているらしく、大人の世界は子供にはわからないことばかりできょとんとしている。

姉妹ふたりにとっての世界の謎が解きほぐされるわけではなく、そういうものだから、と放置されてしまうわけでもなく、どこからか現れるフランケンシュタイン - まだ恐怖の対象とはなっていない - のような、精霊のようななにかはいるのだ、と目を閉じてごらん、と父は言う。あれだけ果てしない原っぱや、伸びていく線路や、世界の広がりを見せておいて…


El sur (1983)

4月14日、日曜日の晩、BFI Southbankの同じVíctor Erice特集で見ました。原作はスペインのAdelaida García Moralesの短編小説。

↑のデビュー作から10年後に発表された長編2作目。 10年かけるのかー という驚きと、これなら10年かかるかも、という納得がぐるぐる果てのない追いかけっこをして、それはリリースから40年経ったいまでも変わらず。

今回、暗がりを抜けようとしている淡い光のなかに浮かびあがる娘はひとり、前作より少し大きくなり初聖体拝領式のお祝いを前にして、そのために南の方から祖母と父の乳母がやってくる。前作で姉妹たちの目の前に映し出されていたいろんな世界とその謎は、少女の父の - 自分の生まれる前も含めた父のよくわからない過去や水源を見つけだす不思議な能力にも向けられ、その多様なカケラたちと現在を結ぼうとする。

“El sur” - 南 - というのがその方角で、そこにも世界の中心はあり、冒頭で少女Estrellaが父の失踪を知る際も、父が頑なに語ろうとしない過去のその根っこにあるのも、祖母たちがやってくるのも「南」で、そこに行けば過去も含めてすべての謎は解かれて明らかになるのか、そうはならないだろうと思いつつも、自分の知らない土地とそこに(そこでも)流れていた時間に思いは飛んでいって止まらない。自分の大好きな人たちが過ごした土地で、かつて何があったのか? それを知ったら自分には何が起こるのか - 父を嫌いになったり、父は自分を嫌ったりするのだろうか?

どこにでもありそうな家族の、父と娘の柔らかなありようを追いながら、歴史やしきたりのようなものが彼らにしたこと、するであろうことを我々の家族や土地の物語に敷衍できそうなところまで広げてみせる。魔法でもお伽噺でもなく、そうやって動いて、たまにダンスしたりしつつ生きられてきた近代の家族の物語として。

前作に続いてここでも映画は小さくない役割をして、フランケンシュタインが、アナの目の前に現れてみせたように、今度は父親が、スクリーンに現れる女優 - Irene Rios(Aurore Clément)の方に向かって - 映画の世界に消えていってしまうかのような動きを見せる、というのと成長したEstrellaと父との再会に繋ぐことで時間を飛びこえる装置としても機能しているようで、だからこんなふうに。

だからこんなふうに映画はあるし、世界もまた、と。
Víctor Ericeが地面を歩いて水のありかを教えてくれるのを驚嘆の目で見つめるしかないのだった。

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