1.26.2016

[film] La Fleur du Mal (2003)

17日の日曜日の午後、アンスティチュのシャブロル特集で2本見ました。
こんなにどっしりみっちりした2本を見て、しかも講義まで付いてて1600円なんて、犯罪みたいに安い。

「悪の華」。 英語題は”The Flowers of Evil”。

冒頭、茂みの奥にぼうっと浮かび上がるお屋敷のなかにカメラが這うように進んでいって階段を昇ったところの手前の部屋で女性が蹲っていて、その次の部屋に流血した男性が転がっている。導入としてまずぞくぞくくる。

米国に数年間滞在して戻ってきたフランソワ (Benoît Magimel)を父のジェラール(Bernard Le Coq)が空港で迎えて、その車中で母さん- アンヌ (Nathalie Baye)が今度の市長選に出るんだけどどんなもんか、とか嫌味を言って、随分新しく変わった町の様子、更に家族全員の紹介があって、家には血の繋がっていない母とその母の連れ子で心理学を専攻しているミシェル (Mélanie Doutey)と、母の叔母で朗らかそうなおばあちゃんのリーヌ(Suzanne Flon)がいる。
(うなぎ料理、おいしそう)

父はドラッグストアの経営をやっているが酒好き女好きで裏がありそうで、母は選挙運動で慌ただしく飛びまわっていて、フランソワとミシェルはとっても仲がよくて、仲が良すぎて問題になりそうだったのでフランソワはアメリカに渡った、ようなこともわかってくるのだが、ここらへんまではごく普通のブルジョワのおうち、なかんじがする。 多少のどす黒さは許容しよう、と。

アンヌの選挙事務所に匿名の手紙が投げこまれた、という辺りからちょっと不穏な空気が流れ始めて、アンヌの父は戦時中、対独協力者でレジスタンスだった自分の息子を殺した、とか、そのあとでリーヌが自分の父を殺した疑惑もあるとか、とか。
これも選挙活動ではよくありがちな誹謗中傷だし、本人とは関係ない過去の話だし、てきとーにやり過ごすこともできるし、実際にアンヌはそんなの構ってられないくらい慌ただしく支持者まわりをしている。 

でもそうして投げられた小石が家族のなかで割と暇にしているフランソワとミシェルとリーヌの間でなんとなく渦を巻きはじめて、そんなに遠くない過去の事件の記憶と共鳴を始めたところで、(ぜんぜん意図なんかしていなかったのに)起こるべくして事件は起こるのだった。

両親のうちのどちらかひとりは血が繋がっていない。兄妹だけど血は繋がっていない。血が繋がっている一部の肉親は昔やってはいけないことをした(らしい)。 やってはいけないことのなかにもやってよいこととわるいことがあるよね。 でもこれらはすべて内輪の、内縁のことで誰にも迷惑かけてないし危害加えてないし。 こんなふうに閉じた輪のなかでとぐろを巻く血と憎悪と愛と善悪の編み目の隙間にひっそりと咲くのが悪の華である、と。

あとはあの終わり方の後に続くであろうこと、あの後に開いてしまうかもしれないアナザー悪の華をイメージする、それだけでたっぷり追加で1時間は楽しめると思う。 対独戦から市長選へ、家族の輪のなかで閉じているようで、なかなかの広がりをもった罪を巡る映画なの。


ぜんぜん関係ありませんが、New Yorkのキッチン用品店、Broadway Panhandlerがこの春、40年の歴史を閉じてしまうのだと。

http://www.nytimes.com/2016/01/25/dining/broadway-panhandler-longtime-manhattan-cookware-retailer-to-close-in-spring.html

今のロケーションの前 - SOHOのBroome stにあった頃は結構通って、店猫によく引っ掻かれていた。
かなしいなあ。 お気に入りのレコード屋や本屋が消えてしまうのとおなじかんじ。 

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