11.28.2014

[film] Tonnerre (2013)

23日、日曜日の昼間に渋谷で見ました。

待望の、という割にはなかなか見にいけなかったGuillaume Bracの長編第一作。「やさしい人」

原題は、舞台となるフランスの田舎のトネールのこと。
パリで音楽をやっていて、なんか疲れて父の住むトネールの実家に戻ってきたMaxime (Vincent Macaigne) は、宅録みたいなことをしながらぼんやり過ごしていて、ある日地元紙の取材にきたMélodie (Solène Rigot)と知り合って仲良くなって、家に泊まったり、スキーに行ったり、恋人同士になる。

Mélodieには地元サッカーチームの元カレがいて、ちょっと未練あるふうな彼女がなんか変かも、と思ったら連絡が取れなくなって、しつこく電話していたらよりを戻したらしい元カレから「引っこめ、ロリコン野郎!」とかメッセージが来たりして、だんだん冷静じゃなくなっていく。 知り合いが持っていた拳銃を手にした彼はふたりを待ち伏せして駐車場で。

中年にさしかかったどんより冴えない男が久々の恋に目覚めて正気を失っていく - というと、たんなるロリコン野郎のストーカー話、に見えてしまうのかもしれないが、そういうのではないの。ぜんぜん。
(ネタバレかもだけど)暗くやりきれない話ではない。ひとは死なないし、血がでるのはほんのちょっとだけだから。

凍てつく田舎町で、唇以外はまっしろでふるふるしている男(ちょっとRobert Smithぽい)と女が出会って、会話と逢瀬とキスを重ねて恋仲になっていくやわらかく暖かい過程と、それが突然途絶えてしまったときの困惑と混乱と絶望、刻々と過ぎ去り失われていく、ほんとうはそこになければならなかった時間と瞬間をカメラはMaximeに親密に寄りそって生々しく拾いあげていく。 恋愛に落ちたときのとりかえしのつかない、でもそこにしかない麻薬が運んできたかのような時間がここにはある、それだけでなんかたまんなくて、だからMaximeが意を決してそれを取り戻そうとするのはちっとも病んだ行為には見えない。

そのMaximeのきまじめな追いつめられっぷりを「やさしい人」と呼ぶのに違和感はなくて、でも驚くべきなのはその彼の突撃にやんわり同調しちゃうMélodieで、彼女もまたしょうもなく「やさしい人」なのだった。 それをいうならパパもそう。 わんわんも。 みんなやさしいんだよ。
或いは、その手ぶらで無防備なさまを子供、と呼んでしまうこともできるだろう。

やさしい人と大人になりきれない子供たちが巻き起こす騒動を描く、というとやっぱしJudd Apatowの世界に近いんだねえ、とか。(Maximeは”Superbad”のTシャツ着てるし)
ちなみにGuillaume Bracが影響を受けた5人* -  Maurice Pialat, Eric Rohmer, James Gray, Judd Apatow, Jacques Rozier、ってなんかわかりやすいねえ。  *Libérationのインタビューより

しかしVincent Macaigne、『ソルフェリーノの戦い』(2013)でも中編の”Kingston Avenue” (2013)でもそうだったけど、恋に狂ってなりふり構わず突進していく薄気味悪いやつ、のイメージが定着しちゃうのかしら。 このひとはPSHみたいにもSeth Rogenみたいにもなれるすごい可能性を持っていると思うんだけどなー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。