12.21.2022

[film] Siebzehn (2017)

12月10日、土曜日に『Gucchi's Free School × DVD&動画配信でーた 現代未公開映画特集! with Stranger』という一日イベント(?)から菊川で3本見ました。

英国にいた時にしみじみ思ったものだが、向こうではメジャーリリースされないいろんな小品が2週間くらいの単位でふつうにじゃんじゃか映画館でやっていて、ぜんぶ追えるわけではないものの、おもしろいのもすごくあって、日本に紹介されるのって本当にその一部で、もちろんそれは日本でリリースされるインディー系の小品でも事情は全く同じなのだからもっと日本のを見れば? なのかもしれない。けど、小さい頃からずっと洋画を見て洋楽を聴いて海外文学を読んできたのと同じで、そう簡単に行くものではない(し、そんなの大きなお世話だし)。

今回紹介された3本は、どれもそれぞれに違っていてよくて、配信でも見れるやつなのだろうけど、映画館で見るのってやはり違うし。以下、見た順で。


Lingua Franca (2019)


作・監督・主演をIsabel Sandovalがひとりでやっている。
Olivia (Isabel Sandoval)はフィリピン系移民でロングアイランドのブライトンビーチの近辺に住んで、仕事は高齢で認知症の気があるOrga (Lynn Cohen)のケアを住みこみでしながらフィリピンの母親に仕送りをしていて、でも不法滞在状態なので、グリーンカードを取るための結婚相手を斡旋する業者ともコンタクトをとって、でも外れてがっかりしたり。

Orgaの孫のAlex (Eamon Farren)はちょっと不良で、酒でトラブルを起こして叔父のやっている屠殺〜精肉工場でバイトを始めたところで、Oliviaと出会って互いになんとなく惹かれていくのだが、Oliviaは自分の置かれた状況もあるから踏み出すことはできなくて、でもAlexのガラの悪い飲み友達が彼のところに泊まりに来た時、Oliviaの部屋にあった金を盗んで、さらに彼女のフィリピンのパスポートを見ると、昔の男性の写真だったのでおい!ってAlexにいう。 Alexは少し動揺するものの既にOliviaのことを好きになっていたので、後でOliviaが不法滞在でトランスでもあることを告げても、黙って聞いていて..

ふたりはハッピーエンディングを迎えたのかどうか、明確には示されなくて、最後の画はOrgaの姿 - 自分が誰であるのか、すべてを忘れてしまってもそこに居場所のある彼女と、自分が誰であるかの輪郭はくっきりとあるのに居場所のないOliviaとの対照が。


Siebzehn (2017)

英語題は”Seventeen”。オーストリア映画で、2017年のMax Ophüls Awardを受賞している。
作・監督はMonja Artは1984年生まれのオーストリアの人。

オーストリアの原っぱや湖のある田園地帯に暮らす17歳のPaula (Elisabeth Wabitsch)は高校最後の年にきて、教室で日々つるんでいる仲間もいるのだが、斜め前に座っているCharlotte (Anaelle Dézsy)のことをぼんやりいいなー、と想っていて、でもCharlotteにはいつも忠犬の彼が横についているので、自分も手近にいるTim (Alexander Wychodil)なんかと付きあい始めてみたりするものの、やはりちょっと違うなってなったり、そんな彼女をみて興味をもったLilli (Alexandra Schmidt)が声を掛けてきて(それは遊びだったことがわかり)でもやっぱり自分はCharlotteがいいなー、ってなって..

都会生活とか大学生活への憧れもないことはないけど、父親に障害があるので家を出ていくことはできそうにないし、シリアスに考えてもしょうがないしー、ってぼんやりなのだが、その誰のせいとも言えないいたたまれないかんじがとても生々しく伝わってくる。

高校生の、授業の合間にぼんやり夢想してどこまでも止まらなくなる妄想(たまに実映像としてでてくる)をいくらでも好き放題に野放しで走らせていくと、こんなふうになる。カミングアウトをするしない、とか虐めや抑圧の軽さ重さなんてどこにも見当たらず、どこまでも真っすぐな平面の上で、自分はだれを好きになってだれとどっちに向かっていくのだろう、を延々自問していく、そのシンプルな軽さがなんか素敵で。

あと、フランス語のコンクールで、Paulaがプルーストについて話すところ、よかった。


Das merkwürdige Kätzchen (2013)


英語題は“The Strange Little Cat”。作・監督のRamon Zurcherの長編監督デビュー作で、彼はこの後に”The Girl and the Spider” (2021) - 未見 - を撮ることになる。72分で、カフカの『変身』を大雑把にベースとしている、というのだが、カフカよりもなんだか変、って思った。

ベルリンの、ごくふつうの中流そうな家に家族+親戚が集合する。まんなかにいる父母とまだ小さい兄と妹、犬と猫、そこにおばあちゃんが運ばれてきて、あまり顔をだしたことのない叔父夫婦もやってくる。 起こる起こらない話でいうと、洗濯機を直したりはするけど喧嘩も事故もパニックも起こらないで、映画は食事その他の仕度を始めようとしている母から始まって、時間的にもほぼそこに留まったままー。

たったこれだけ、なにが起こるというわけでもないのに、家族という集団の、あるいはその活動(行ったり来たり、おしゃべり、睨み合い、たまにどつく、など)の変てこで変態なことときたらとてつもない(ように見えてしまう)ことに息を吸うのも憚られてしまってこれは何? になる。

かんじとしては”The Humans” (2021)にちょっと似ている、でも”The Humans”のがまだ人間ぽいかー。

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