12.01.2022

[film] November (2017)

もう行ってしまった11月。 11月20日、日曜日の昼、イメージフォーラムで見ました。
これの前に見た『恋人はアンバー』からのギャップ.. はないこともないけど、いいの。

原作はAndrus Kivirähkの2000年の小説”Rehepapp ehk November” - 英訳すると"Old Barny aka November"、監督はエストニアの69年生まれのRainer Sarnet。2018年のアカデミー賞の外国語映画部門のエストニア代表に選ばれている。

きれいなモノクロで、このあいだ見た”Marketa Lazarová” (1967)のように雪と狼が出てきて、また寒くて暗くて人の顔とかよくわかんない世界か、と思っていると傘の骨みたいなのが勝手に動いてチェーンを引き摺りながらヘリコプターのようにゆっくり飛んでいって、牛小屋に入って牛と向き合い - 牛を殺さないでー と思ったらその牛をぶら下げて飛んで村人? のところに連れて戻ると、そいつは「仕事をくれ」とかいう。

これが“Kraat” – クラット – 使い魔と呼ばれるジャンクな精霊みたいなので、人々にこき使われているなにかのお使いのようなやつで、これを操るためには悪魔と取引が必要とか。あとは11月は死者が戻ってくる月なのでみんなで着飾って待っていると真っ白い人たちが大量に現れてそれぞれの家の中に入ってみんなで食事をして、家の宝がきちんと保管されているかを確認したりする。結構ずうずうしそうな死者たちで、こちらのお盆にやってくる方々とはやはり違う。

村の娘Lina (Rea Lest)もその晩、そうやって亡くなった母と会う。彼女は村の青年Hans (Jörgen Liik)を好きなのだが、Hansは村外れの丘の上の邸宅に暮らすドイツ男爵の娘(Katariina Unt)のことが好きで、LinaはHansにこっちを見てもらうために床下の家宝を盗んで悪魔と取引したり、館からドレスを盗んできたり、でもLinaのところにはでっかい年をとった髭男が求婚してきてぐへへ、とか言っていて、Linaは男爵の娘を殺そうと思うのだが月夜の彼女が美しすぎてできなくて…

ストーリーとしてはこれくらい。メカニカルにぎくしゃくしたクラットを動かしているなにか、先祖や精霊や伝染病がどこかからかわるがわるやってきて人々は雪とか泥にまみれて祈ったり沈んだりしながらその相手をしていて、丘の上のお屋敷に暮らす貴族は召使いたちも含めてどこかしら狂っていて、登場人物たちはこれくらい。

どちらかというとエストニアの神話が元になっているらしいクラットとか死者や災厄や悪魔がふつうにそこらにいて取引したりする、そんな民間伝承のようなところが映像として展開されていて、その世界まるごとのおどろおどろの暗く禍々しい確かさ(スローで冷たい怖さ)などを見渡して異教の地だ異世界だあ、になればよいのかと思われる程度、できればそこにLinaとHansの11月の恋物語 - 悲恋とまではいかない - が絡まって人間と魔界との、あるいは人の世界の身分を超えた情念が絡まってスパークしてくれたら申し分なかったのだが、そこまでは行かずにひとつの村世界、そこの11月のエピソードのようなところに留まってしまったのはややもったいなかったかも。魔法を使ったり化け物を出して、とまでは言わないけど。

それでも、ゲゲゲの鬼太郎がいなくても水木しげるの世界が十分魅力的なのと同じように、テリー・ギリアムとかブラザーズ・クエイとかヤン・シュヴァンクマイエルの世界がストーリーどうこうよりまず事物の動きなどが楽しかったりするのと同じように、モノクロでやや湿っぽい11月の村は魅力的なのだった。モノクロの明彩は少しきれいすぎる気もするけど、CG使っていなさそうなのはよいかんじだし。

でもあえて言うなら、この隔絶された異界に対する異物感とか、これはなに?なにが起こっているの? の混沌に対する恐怖や混乱がもう少し滲んだりじわじわ来てもよかったのではないか。ちょっと魔物に言われたり宣言された通り円滑にコトが運びすぎる気がして、見て追っていけばわかるのだがそういうものなのかなあ、って。撮ったのを見ているこちら側には絶対に来ない、そういう安心感の元で作られている気がして、もっとめちゃくちゃでわけわかんなくした方が盛りあがると思ったのだった。

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