2.05.2013

[film] Sound City (2013)

この映画も、"This is 40"と並んで、この滞在中になんとしても見なければ、だった1本。
2/1(金)の公開初日の晩、リンカーンセンター(の新しいほうのシアター)で見ました。

Sound CityていうのはSan Fernando Valleyにある(あった)レコーディングスタジオで、ぼろいし臭いし、なのだが、70年代からいろんな人達がレコーディングしてきて、そこで生まれる音はなんでか素晴らしく、沢山のミュージシャンを魅了してきて、沢山の名盤を生んできて、監督であるDave Grohlさんが、数々の関係者インタビューを通してその謎に迫る、と。

Dave Grohlさんの映像センスについては、これまでのPVとか、こないだの3Dスタジオライブでも示されてきたように、端からぜんぜん期待していないし、実際に学校の先生みたいにくどくど同じことを語り続けるのではっきりうざいのであるが、ロック・ドキュメンタリーとしての風呂敷のでっかさ、よくやったね、なかんじについては否定しない。 洋楽聴きであれば必修映画となることは間違いなかろう。

前半は、ここで生まれた名盤の数々を作った人達のインタビューを通して年代順に振り返っていく - Buckingham Nicksから Fleetwood Mac, Tom Petty, Rick Springfield, Fear, などなどなど。 実際にこのスタジオ内でレコーディングしたミュージシャンの証言に加えて、スタジオの外側から、レコーディングという作業そのものについての言及もある - まるで仙人のようなNeil YoungさんとかRick Rubinさんとか。

だだっぴろいフロアでメンバーの全員が向かい合って、せーので音を出すことで、その瞬間に生まれるケミストリーがここにはあった、と。
ごくあたりまえの話なのかも知れないが、レコーディング・スタジオというのはそんなバンドサウンドを記録する場なのだ、と。

これらの証言と並行して、なんでこのスタジオの音がよいのか、どんなふうによいのか、も明らかにしていく。 Neveのコンソール、世界に4台しかなくて、ここのはそれを更にカスタマイズした特別なやつであること、特にこいつを通したドラムスの音はすばらしい音になる、と - これはTaylor Hawkinsが実際に叩いて、更に監督自らもばりばり叩いて、んで、その時その上に"Smells Like..."のあのドラムスがなだれこんでくるところは、もう、いやでも鳥肌がたつ。 なんか悔しいけど。

というわけで、"Nevermind"の製作当時、レコーディング観点からの話も(Butch Vigさんのコメントを含め)入ったりして、で、これがチャートの1位になって以降、ここはRATMとかWeezerとか、オルタナ系ミュージシャンの聖地となるのだが、やがてやってきたデジタル化の波とオーナーの死などが重なってスタジオ自体は2011年にお亡くなりになる。 合掌。

で、ここで話は終わらなくて、Sound CityからNeveのコンソールを買い取ったDave Grohlが、自身のスタジオにそいつを移設して、Sound Cityという場の持っていたヴァイブとマジックを、何人かのミュージシャンを呼んで再現してみよう、という試みを記録したのが後半部。

Stevie NicksとかJim Keltnerとか、かつてのSound Cityを知っている人達とのセッションは楽しいのだが、なかでもびっくりなのがRick Springfieldなの。 さてやってみるか、というかんじで彼がギターを刻み始めた途端、そのかっこよさにDaveを含めてみんな唖然。 高校生だった昔昔、Rick Springfieldをすてきと思ってしまったことをちょっとだけ恥じていた自分、きみは間違っていなかったんだ、と救われるの。

あとは、Trent Reznor, Joshua Homme, David Grohlのトリオによるセッション。
最初はTrent Reznorがエレピで、Joshua Hommeがギターだったのだが、Trentがふとベースを手にして鳴らしてみたラインがかっこよかったので、Joshuaはベースにスイッチして、音全体の佇まいはもろ、あの、くぐもった青緑のTrent Reznorの音になる (コメントは、おじいちゃんに習わされたピアノのこと、などなど)。 これだけで十分すばらしかったのでふーって溜息をつくと、Trentは今の音源一式を全部自分のコンソールに取り込んで、たったひとりで画面に向かい、その上にギターをじゃらじゃら被せてしまう…

アナログの良さを讃えてデジタルを悪者にするのは簡単だが、デジタルでできることは沢山あるはずだし、その可能性はまだ極められていない - (それをやるのが自分の仕事で、自分にはそれができる) - というようなことをTrentは言うの。
至極、じゅうぶんごもっともなのだが、このコメントはこの映画のテーマとは見事に逆行していて(ま、そもそものテーマ自体、反時代的なわけだが...)、これに対してDavid Grohlがなんか言うのかと思ったらなんも言わずに(ま、言えないね)、その次の大御所セッションでお茶をにごす。

それが、Paul McCartney, Krist Novoselic, Pat Smear, Dave Grohlというなんとまあ、の顔合わせなのだが、これが凄すぎてびっくりする。 このセッションに関しては、どう見てもSound Cityの雰囲気だのコンソールだのによるものではなく、たんにPaul McCartneyという人がとんでもないのだ、というだけの話なのだが、とにかく、この人を見よ、と。
Kristがベースを弾きながらあんなに楽しそうに腰を振っているのを見たのはNirvana以来だ、とDaveが目を細めるとこもよいの。

ここで提起された制作の現場のはなし、アナログとデジタルのことって、映画でもたぶん同じような議論はあるのだろうけど、どっちにも寄ってほしくない。 両方ばらばらに勝手に散らばっていてほしいものだが、難しいんだろうなー。

日本でも当然、当然公開されることでしょうが、なによりも音のよいシアターで上映してほしい。爆音だとちょっと違うかも。バスドラのボールドな音像がくっきりと出るようなとこで。

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