6.04.2011

[film] Bill Cunningham New York (2010)

水曜日の晩、下のほうに降りて9:30の回をみる。 ようやく。

かかった予告がどれもいかった。 "Trollhuner"(ノルウェーの怪獣もの)、 Monte Hellmanの"Road to Nowhere"(ついに)、そして"Crazy, Stupid, Love" (役者さんが豪華)。

さて、Bill Cunninghamは、主にNew York Timesのためにファッションスナップをずうっと撮り続けているおじいさんで、その彼の日常を追ったドキュメンタリー。 タイトルに彼の名前に加えて"New York"とあるのは、彼とNew Yorkのお話し、彼を通して描かれるNew Yorkという街のお話しでもあるから。

New Yorkを、ある時期のこの場所のファッションを追ったドキュメンタリーとして、今後は必須・必殺の参照アイテムとなることでしょう。すばらしい。 見てよかった。

カーネギーホールの上の穴倉のようなStudioに住み(やがて立ち退きが実行されてしまうのだが)、作業着を着て自転車(28台盗まれて29台目)に乗って、どこにでも行って、にこにこ笑いながら鳥が餌をつまむように、ダンスのステップを踏むように、驚くべきスピードで写真を撮りまくる。

Vogue誌のAnna Wintourは彼には10代の頃から撮ってもらっているのーと猫みたいにめろめろになるし、Metropolitan MuseumのCostume InstituteのキュレーターであるHoward Kodaも、眼鏡おばあさんIris Apfelも、誰もが彼の撮るファッション写真の正しさ、的確さを讃え、メディアからもデザイナーからも街のおしゃれ小僧からも、誰からも慕われる。

ひとには興味がない、と。 セレブが着ているとか誰それが着ている、どこのブランド、とかそんなのはどうでもいい。 まず服を見ろ、その線を、いくつもの線を、シェイプを、色を、それらの重なりや連なりが織りなす像を見ろ、そこに全てがあるんだから、ていうの。

服飾は都市を、そこでの生を生き抜くための、或いはそこでの生を守ってくれる皮とか羽根とか鎧とか、そういうもので、だからそれらを追って束ねた彼の写真はそのままNew Yorkという街を映す鏡(ラストにVelvetsの"I'll be your mirror"が流れる)として、びっくりするようなリアルさでもって現れてくる。 こうして、ファッションの街として呼ばれるところのNew Yorkは、彼の写真によってはっきりとその貌を露にすることになる。 アジェのパリ、桑原甲子雄の東京、とおなじように控えめな、しかし幾重にも連なる重奏としてそこにあらわれる夢としての街のかたち。

だからしかし、真摯な表情として現れてこないような服やファッションに対しては、ショーのフロントローにいようとも決してカメラを向けない。 そういうお茶目な厳格さでもって、ミズラヒがある時期のジェフリー・ビーンをぱくったこととか、アルマーニもどっかの昔のデザインから持ってきていることをそれとなく暴露したりもしている。 単にぱしゃぱしゃシャッターを切るだけの記録屋でもないの。

ファッションと都市を追ったドキュメンタリー、という側面の他に、彼の暮らすカーネギーホールのStudio長屋に暮らす他のアーティスト - 同じく写真家のEditta Sherman - との思い出話もすごくおもしろくて、興味深くて、ここだけで番外編作ってくれないかなあ、とおもった。  
他にどれだけこんなふうなお話しが埋まっているのだろうか。

最後の最後にインタビュアーが彼にいくつかの質問をするのだが、そこだけちょっと泣けるかも。
ヴェンダースのベルリンに出てきた天使とおなじようなおじいさんなんだなあ、て。

このおじいさんがカメラを持って見守っている限り、世界のブランド地図がどんなんなっていこうが、おしゃれの世界はだいじょうぶだろうな、ておもえた。

あと、ちょっとだけ出てくるTom Wolfeも、すごーくかっこいいおじいさんだった。

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