7.20.2017

[film] Don't Look Now (1973)

ここんとこ気圧がさいあくの動きをしていて頭痛がぜんぜんやまない。
19日の晩、BFIで見ました。 『赤い影』 イギリスでは昔からやたら評価が高い作品。ようやく見た。 

上映前にロンドン大学のRoger Luckhurst教授(英文学)による簡単なイントロがあった。
この映画の原作は誰もが知っているDaphne du Maurierの短編(『いま見てはいけない』で数年前文庫になったよね)なのだが、その前に知っておくべきこととして、John Ruskinのゴシック建築論 〜 "The Stones of Venice"に触れ、そこから小説ではなんといってもHenry James - 特にヴェニスが出てくる"The Aspern Papers" (1888)  - "The Lost Moment" (1947) -『失われた時』として映画化されてる - と"The Wings of the Dove" (1902)、さらに"The Altar of the Dead" (1895)  - トリュフォーの『緑色の部屋』の原案 - は無視できない、更にはWilkie CollinsとVernon Leeの影響もある、と。 要するにめくるめくゴシック建築の宇宙であり失われた都市であるヴェニスを舞台に死者の影を追って神経質な男が右往左往するホラー、ゴーストストーリーなのだ、というのと、冒頭の数カットの重要性と、Flashback / Flashforwardの巧みな編集を時間の連続性を断ち切って恐怖を加速させる装置と位置づけるのと。 あとはこれ、英国での公開時はX指定、米国ではR指定で、要するにポルノ扱いだったと。しかも2本立てで併映は"The Wicker Man"だったとか(すげえな)。あと、まんなか辺のセックスシーンについて、主演のふたりがあれを実際にやっているやっていないの議論がずっと続いていたが、Donald Sutherlandが数年前に「やってないってば」と宣言したので収束した。

というようなこと(たぶんもっといっぱい)を10分くらいでばーっと喋られて、ひえええー、と思っているうちに映画が始まる。

John (Donald Sutherland) とLaura (Julie Christie)の夫婦は自宅のそばの池で娘のChristineを亡くし、その後、揃って建物の修復でヴェニスに赴き、そこで奇妙な双子姉妹と出会う。 うちひとりは盲目だがChristineが見えるわ - 手を振って笑ってる - といい、Lauraはそれを聞いて喜ぶのだが、Johnはそんな不吉な、てやな顔をして、その後もいろんなへんなことや変なひとがいっぱい現れたり、近辺で連続殺人もあるようだし、息子の怪我でいったん英国に飛びたったはずのLauraを船の上で見てしまったあたりからJohnはおかしくなっていって、やがて。
先にも書いたようにFlashbackとFlashforwardが多用されるので、ストーリーの流れだけでなく、個々のカットが時間軸のどの地点のだれの目/意識で、どこに繋がっているのかを気に留めておく必要があって、でもその速度に追いつけなくて引き摺られた状態でヴェニスを同様に彷徨い、そういった点も含めるととてもFatで、ものすごくいろんなことを一度にいっぱい見たかんじになる。

こんなふうに頭のなかに積みあがっていく事実関係や人物関係の流れとは別に、鮮烈な赤ずきんの赤とか、路地の奥とか、壁や床、石の肌理とか、変な顔の人たち、なにをしているかわからない人たちとか、雨音とか、夢のなかのようにうまく説明のできないイメージが編集の切れ目切れ目にじんわりと浸食してきて、とにかく逃げ場を失う。抜けられなくなる悪夢の怖さ。

音楽も正面から堂々と鳴らない。控えめに頭の奥で、目覚まし時計のように鳴る。
(これのサントラ - 7inch、こないだのRSDで出ていたよね)

"Don't Look Now" - いま見てはいけない。 "Now"の底にあるのは水であり抜けた足場。 見るべきは、追うべきは過去であり未来であり、でもそこにあったのはどっちにしても...

この円環の閉じ方、どん詰まり具合の救いようのなさが、英国人にはたまらないのではないかしらん。

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