5.21.2013

[film] 乙女ごころ三人姉妹 (1935)

11日の土曜日、神保町シアターの特集『文豪と映画 川端康成 「恋ごころ」の情景』でみました。

成瀬のトーキー第一作。29歳のときの作品。 
ここの前の特集で、サイレント時代最後の『限りなき舗道』(1934) を見たので、これも見ないと、だったの。

冒頭の浅草の町の描写で映画館の幟にちらっと『御誂次郎吉格子』の文字が一瞬見える。
この雑踏のなかに映っている人のなかにはこの映画を見た人たちもいるのだろうか(自分も見たんだよ、先週!)、いるのだったらどんなふうに思ったのだろうか、楽しかっただろうか、泣いちゃったのかしら、元気をもらったのかしら、とか、そういうことを思う。

原作は『浅草の姉妹』で、文芸文庫のピンクの「浅草紅団」に入っているやつかと思っていたら、入っていなかった。(絶版なのね)

浅草に三姉妹がいて、母親は門付け(料亭とかに行って三味線で歌をうたう流しみたいな水商売)の元締めをしてて、次女のお染(堤真佐子)は他の娘さんたちと一緒に門付けに出ていて、長女のおれん(細川ちか子)は劇場のピアニストだった男とくっついて家を出ていて、三女の千枝子(梅園龍子)はレビューダンサーで、お金持ちのぼんとつきあい始めたところで幸せそう。

次女だけ鼻緒が切れちゃったり、嫌なおやじ客に嫌なことされてうんざりしたり、同様にくさっている仲間の娘のケアをしたり、妹にも姉にも幸せになってもらいたいので、ひとりでぜんぶひっかぶって母親とも対決してぶちきれて、人生楽じゃなくて、ほんとうにかわいそうなの。

そのうち、どうもやつれ果てているらしい、と噂に聞いていた姉のおれんに会うと病気で郷里に帰ることにした旦那のために金策で走りまわっていて、お金のために昔つるんでいた不良仲間とも連絡を取りはじめたといい、やがて金づるを求める不良の手が千枝子の彼に及ぶのを見て…

雑踏の音処理のなか、どこかから聞こえてくる肉親の、姉妹それぞれの声、昔の楽しかった頃の笑い声、そういうのが耳元に響いてくるような親密な音の肌触り。 その鳴りを「乙女ごころ」と呼んで、『限りなき舗道』がサイレントであってもひとりで歩いていく杉子の声が聞こえてきたように、このトーキは三姉妹の声が貫いて刺さってくるの。

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