7.29.2011

[film] World on a Wire (1973)

土曜日のお昼にみました。 かんかん照りの夏の昼間に。

ファスビンダー、73年のTV movie "Welt am Draht"。 
昨年のMOMAの修復映画大会の目玉作品で、でも行けなくて、もうじきCriterionからDVDも出るらしいのだが、210分(二部構成)のDVDなんか見ていられるわけないと思っていたら、IFCで一週間だけ公開されると。

あっついし、ながいし、なんて言っていられない。

修復はMichael Ballhausが全面監修しているそうで、これはもう、圧倒的にすごかった。
冒頭の雪に濡れたような建物の遠景だけで、既にとんでもないの。
ガラス、鏡、水、のなかを通る光、それらのちょっとした屈折がもたらす歪んだような、爛れたような色、天地の感覚。 リアリティ、を「の、ようなもの」のところに置いて、それでもこちらの知覚に侵食してくる圧倒的な「世界」。 映画作品として構築されたこの表象世界もまた、三番目の入れ子になって迫ってくるかんじ。

コンピュータ上に仮想世界(Simulacron、ていうの)を構築する(約9000人分のIDをつくってその中で生活させて、どうなっていくのか見る)実験を進めている政府機関の科学者が突然死んだり、失踪したりして、そこの同僚である主人公がその原因を探っていくのだが...

原作はダニエル・F・ガロイ〈Daniel F. Galouye〉のSF、『模造世界』 SIMULACRON-3(Counterfeit World)ていうやつで(読んでない)、創元SF文庫から出ているらし。

こういう、サイバースペースとかマトリックスとかセカンドライフものが、73年にあったとか、そういうのは割とどうでもよくて、見るべきなのは人工的な世界とか虚構のなかで、自身のよりどころを失い、周囲の全てが信じられなくなって暴走し、やがて破滅していく主人公、という70年代ファスビンダーに一貫してみられるテーマ(「シナのルーレット」(1976)とか「デスペア~光明への旅」 (1978)のあたり)が、SFという設定のもとで、とてもわかりやすく、しかし強烈に出ているところがすごいの。

自分がふだん現実と信じこんでいるものはほんとうにそうなのか? そもそもの自分はどこに、どっち側にいるのか? とかそういう議論が、プラトンやアリストテレスの引用とともに展開される。 
でも、表面は、やたらでかい、ぎらぎらしたドイツ女、とか、なに考えてるのかわからないのっぺりでっぷりした男とか、いつものファスビンダー、のとこもある。

クラシックと電子音、更には木々や鳥の声がきりきり交錯しながら調度が狂っていく音響も含めて、すべてが眩暈のなかに、宙づりになった世界のなかにあって、それらはすべて意図して構築されたもので、ぶらぶら揺れている。

TVを意識したのかもしれんが、そんなに思弁的なとこも暗いかんじもなくて、かっこいい車もでてくるし、ライフルもでるし爆破シーンもある。 70年代のアクション映画、みたいなかんじもするの。


休憩時間に、ここの名物であるDavid Lynchさんのコーヒー - David Lynch Signature cup coffee - ていうのを飲んでみる。
びっくりするくらい香りがすてきでおいしい。禁断のなんかでローストしたとか、変な粉でも入れてみたとか?

あと、これもずっとねらっているシネメタルTシャツのファスビンダーのは、今回も悩んだ末にパスした。 来るたびに悩んでいるな。

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