4.15.2022

[film] Okros dzapi (2019)

4月9日、土曜日の昼、岩波ホールで見ました。 邦題は『金の糸』、英語題は”Golden Thread”。
同ホールでの『ジョージア映画祭2022 コーカサスからの風』でも予告が流れていたので行かないと – 映画館もなくなっちゃうし – と思っていたやつ。すばらしかった。

ジョージア映画祭でも3世代に渡る女性映画監督として旧作が上映されていたラナ・ゴゴベリゼ(Lana Gogoberidze)が91歳で書いて(当初は共同で書き始めたその相方は亡くなられたそう)監督したジョージアの映画。

トビリシの旧市街の古い建物に暮らして79歳の誕生日を迎えた作家のエレネ(Nana Dzhordzhadze)は同居している娘夫婦からもなにも祝ってもらえず、こんなもんか、と思っていると、ふたつの出来事がある。
ひとつは娘の姑のミランダ(Guranda Gabunia)がアルツハイマーでボヤを起こしたり危なくなってきたので今の住居を引き払ってここに住ませよう、って娘たちが勝手に決めたこと。

もうひとつは、60年くらい昔の元恋人で建築家だったアルチル(Zura Kipshidze)が誕生日なのに誰も相手にしてくれないだろう? って電話をかけてきたこと。

前者の件について、ソ連の時代に政府の高官だったミランダは自分の作家としてのデビュー作を発禁にしてキャリアに傷をつけたやつだ、なんでそんなのと一緒に暮らさなきゃいけないのか? それなら自分がここを出て彼女のとこに引っ越すから、というのだが家はもう売ってしまうのだと → 地団太。

後者の件、アルチルはずっと車椅子で家から出ることができなくて – エレネはなんとか歩けるけど家の外には出ようとしない - 友達はみんな死んでしまったので話ができるのは君くらいだ、って通りで夜明けまでずっとタンゴを踊っていたときの話なんかをしてきたりする。最初はなんか面倒だと思っていた彼からの電話が楽しみになってきた頃に、TVでインタビューを受けているアルチルの姿を見たミランダが、あら彼、昔言い寄ってきた人だわ、とか言うのでエレネはあったまにきて。

他人や肉親にケアされないと生きていけないことに絶望や苛立ちや諦めを感じ始めた頃、そうやって生きている/生かされている老人たちが余り向き合いたくなかった過去 or とても甘い過去を掘り起こしたり向かいあわされて、更に戸惑って窓の外を眺める。誰もが嫌な思い出に埋もれて死にたくなんかないし。

だからここに金の糸が必要となって、破れたり壊れたりしてしまった記憶でも金の糸で繋ぎ合わせてくっつければ和解できる - 宝物になる、と。でも金の糸はどこにあるのか? 砕け散った破片はどうやって寄せ集めるのか? エレネは冒頭「失われた時を求めて」について呟いて、作家だから言葉が金の糸になりうるのだろうけど、そうでない人は? それに、ほんとうは掘り起こさないで地中深くに埋めてしまった方がよいもの、焼き尽くしてしまった方がよいものもあるのではないか? とか。 こういうのはもう少し歳を取らないとわからないものだったりするものだろうか?

この金の糸が出てくるシーンは、エレネが同じ名前のひ孫に独り言のように言って聞かせるところ、というのもある。小さいエレネにとってはおそらくなんのことだかわからないけど、それを若い頃の自分が知っていたら、とか。

そして、アルツハイマーで記憶が揺らいでふらふらと外に出ていったミランダにとっての「記憶」もまた、そういうものなのだろうか? 他者から見れば憎しみの対象でしかないものであっても? - ここの答えは出していないように思う。そしてミランダとエレネが抱擁して互いが和解するようなシーンはない。ミランダは記憶の涯てのどこかに旅立ってしまったまま..

記憶は人を縛って孤立させ、でも場合によってはアルチルのように(外に出られなくても)旅とダンスに誘う。エレナも同様にアパートの部屋とベランダを行き来しながら、そこに住む人たちの暮らしを眺めている。そんなエレナにとって世界の中心であり果てでもあるアパート〜ベランダの佇まいのすばらしいこと。

エレナの燃えるような赤毛も、ミランダ - Guranda Gabunia(これが遺作となったそう)の強さも素敵で、家のなかの演奏会で登場するふたりのおばあさん - どちらもとんでもないキャリア - のすさまじい演奏、やはりこれが遺作となった音楽のギヤ・カンチェリ (Gyia Kancheli)のずっと頭のなかで回り続けるメロの強さ、どれもが控えめそうだけど、残る。

最近いろいろぼろかすなので、最後にはどこでどんなふうに、とかなにを見る思い浮かべるとか、ぽつぽつ考えるようになって、そういう時に見れたのはよかったかも。

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