3.26.2011

[film] Mad Detective (2007)

なんかものすごく居心地がわるくて気持ちがわるい。

みんながみんながんばれにっぽんにっぽんつよいみんないっしょだとか言ってるいちばん苦手でいやなモードでとにかくはずかしいひこくみんでいいからふきんしんでいいから同調したくないにげたいかくれたい。

そんなぐあいにずうっと後ろ向きなので会社の帰りにタワレコとか行っても混乱して変なのばっかし買ってしまう。
Nick Heywardのソロとか。 それにしても"North of a Miracle" (1983)は改めてとんでもない名作だとおもった。 1/4世紀ぶりに聴いたけど、どれもまだぜんぶすらすら歌えた。

ライブがドミノ倒しにキャンセルと延期ばっかしになり、映画も"Battle: Los Angeles"とか"Sucker Punch"とかいま一番みたいのが次々延期になり、それだけで息たえだえになっている。
だってそれしかないんだもん。 仕事きらいだし。

いまの自分にできることと言ったらとにかく映画館に通ってこんな事態になってもお金払って映画を見にくるぼんくらはいるんだと思わせてやることくらいしかない。 
なにがあってもTSUTAYAなんか行くもんか。行ったことないけど。

でもねー、そういうときに限って見たいのってあんまないのよね。困ったねえ。

それにしても"True Grit"のチラシはなんであんなにださいのか、とか。
ぶつぶつ言いながらも土曜日、新宿で2本見ました。

Johnnie Toの『MAD探偵 7人の容疑者』(2007)。
シネマヴェーラのほうの特集ではやっていないが、どんなもんかしら、と。

デジタル上映のせいもあるのか、画像がなんかしょぼいかんじに暗くて、音楽は鉄琴がぴろぽろしてて、70年代新宿裏町B級刑事ものみたいな(具体的にどれというのはないが)かんじ。 バンさんのちょっと病的にずるずるした容貌も70年代、かも。 でもおもしろいことはたしか。

ひとの内面の感情を読んで事件を解決する元刑事・現探偵のバンさんが、かつて同じ職場にいた若手のホー刑事から難事件への協力依頼をうけるの。 山奥でインド人の窃盗犯を追っている途中に2人組の刑事のひとりが失踪し、彼の拳銃で強盗事件が多発しているらしいのだが、どんなもんか、と。

バンさんの眼にうつる容疑者はその内面に(うしろに)7人格を持っていて、だから容疑者が動くと7人ぞろぞろ動くので、なんだかややこしそうなかんじなのだが、なんで7人格なのか、どういう7人格なのか、はあまり説明されないまま、被害者とおなじように土に埋まったりしてみたらなんとなく先が見えたりして、ホー刑事もおなじように追い詰めていって、さて最後には。

バンさんの異能さ、それが事件の解決や謎解きに向けて周囲やなにかを動かす、という部分はあまり強調されておらず、むしろ、複雑で面倒くさそうな事件(捜査)をさらに複雑にかき回すいち要素として、ふつーに機能している。

事件のまんなかにあるのは奪われた拳銃で、刑事のアイデンティティの一部として肌身離さず持っていなければならないそれは、ゆらゆら分裂したり憑依したり落ち着かない感情だの人格だのの動静の反対側にあって、消しゴムみたいに矯正器みたいに強力に作用する。

事件を起こすのは不安定に揺れまくる人格、それを追うのは病的にそれらが見えてしまう人格。 起こしたほうはそんなすごい悪ではなく、追うほうはそんなすごい異能変態ではないのだが、これら複数の人格によるドラマをとりあえずリセットしてしまう「武器」としての拳銃。犯人を逮捕するためだけではなく、自己の保身、「統合」の装置として機能する拳銃。 最後のどんぱちで鏡の破壊が示されるのはそういうことなの。 

もちろん、それは拳銃の正しい使われ方ではない。想定外だ。
しかし、感情に想定の内外がないのと同じように、あるひとには見えるものが別のひとには見えないのと同じように、道具はたんなる道具だから状況によって暴走し、事故や事件を引き起こす。

ね。例えば「拳銃」を「原発」と置きかえてみればいい。どちらもなんだかんだゆって危険物なんだよ。あんなのあるからろくでもないことになるのよ。

Johnnie To作品の流れでいうと、この前年の『エグザイル/絆』(2006)の、ひとつのどんぱちをきっかけに組織を追われ、絆に殉じる男達のお話とこれとは対照的な関係にあるのかもしれない。組織内に身を置くために、絆を絶ってしまう冴えない男達。この作品のほうがかっこよくないし、後味もよくないのだが、いろいろ複雑で考えさせられるところはあるねえ。

上映後のおまけの特典映像で、バンさんの狂気はゴッホがモデルだと言ってた。
でもわたしはゴッホを狂気のひとだと思ったことなんかないのだが。

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