10月26日、土曜日の晩、Curzon BloomsburyのDocHouseで見ました。
日本にいた人だったら誰もが知っている酷い事件の、その当事者 - 伊藤詩織さん自身が監督したドキュメンタリー。
まず、最初は正直に見たくないと思った。
今ちょうどDonald Trumpの評伝ドラマ - ”The Apprentice”(2024)が結構な規模で公開されていて、これも見ない。自分の大っ嫌いな野郎を見ても吐気がするだけだし。この”Black Box Diaries”も自分が一番見たくない - それゆえに自分は海外に来た、と言ってもおかしくないくらい見たくないBlack Box化されたす・ば・ら・し・い・日本のあれこれが並べられているだろう。そしてそれらにどうしようもなく無力であることも改めて、思い知らされるに決まっているから。
でもこの週に、大阪の件が報道された。全く同様の構造 - 上からの権力による揉み消し – による犯罪の隠蔽 - 魂の殺人がある、こういうことが許されているのを見て、もういい加減にして、になった。
せめてこの映画の売上や動員に貢献して、恥ずかしいことに本国での公開が決まっていないらしい(決まっていたらごめん)本作の後押しをできれば、と。 真っ先に公開されないこと自体異常ではないか。ロシアか中国か(もうとうに)。
映画はワールドワイドのセールスがDogwoofだったのでへえ、となり、公開後にGuardian紙のPeter Bradshawが、New Yorker誌のRichard Brodyが、NY Times紙のManohla Dargisが褒めているので、だからなお、というのは違うけど、グローバルに通用するクオリティのものだよ、ということは言える。 100分を超えているが、一気に見れる。
客席も、いつもここは入っている時で10人くらいの地味なシアターなのだが、久々に埋まっているのを見た。すすり泣く声も聞こえた。
映画は、事件が起こってからの経緯 - 事件そのもの - タクシー運転手の話やホテル前の監視カメラの映像を挟みつつ、どんなふうにこの事件が起こって、警察による被害者のかさぶたを引っぺがすより酷い聞き取り検証が行われて、犯人の逮捕直前まで行ったのに手前でストップが掛かってもみ消され、不起訴処分とされ、民事訴訟を起こして… などが綴られていく。 既に知っていることではあったが、改めてひどい。 ひどいことがレイヤーになって重なり積みあがっていて、ひとつを崩したくらいでどうなるものでもなさそう – というその全体が黒塗りのBlack Boxとして目の前にあって、これに対して彼女は、電話でのいろんな交渉、弁護士との打合せ、取材メモ、ニュース映像、など、目の前の手持ちのあることできることを全て映像でぶちまけ、重ねて、繋いで、我々の前に示す。 そうしていくなかで度々クローズアップされる彼女の疲弊した顔、辛そうな顔、切りとられる都会の景色。 気がつけば4年が過ぎていた、と - 彼女が桜について語るシーンには悔しさが溢れる。
そういう絶望的な状況のなか、映画ではInvestigator Aと呼ばれる捜査官や公判の直前に証言を申し出てくれたホテル従業員、多くの味方となる女性たちの存在が少しだけ光となる。
その反対側で、外国人記者クラブの会見で、違法なことはしていないのに遺憾である、彼女も大変だったろうが自分も大変だった、と他人事のように語る被告 – こんなふうに謎のパワーと厚顔を行使して平気な顔の加害者 - 職場にも酒場にも湧くようにしているいつものあれ、大阪の検事正だってそう - にどう対峙したらよいのか、相当うんざりする。
(少し話は違ってしまうが、今は職場でもホットラインが整備されてなんでもすぐ言えるようになってきたけど、セクハラでもパワハラでも例えば10年前だったらこの程度、っていくらでも許されて見逃されてきて、そうやって偉くなった連中が山のようにいて、彼らに育てられた連中が中枢でスピークアップ、とか言ったって結局はビジネスのためだろ誰が信じるかよばーか、とか)
この映画を通して彼女の、同様の被害にあわれた女性たちの絶望を共有することができる、という点では優れたドキュメンタリーだと思う。ひとつだけ気になるのは、これを追うかたちで例えば大阪の件や、他の性被害の件がドキュメンタリーとして表に出てくるだろうか? これを突出した伊藤詩織のドキュメンタリーとしてしまうのはよくなくて、メディアでも他のドキュメンタリー作家でも動けるようにしていかないと - ということを考えたり。 でもこれもまた、幼稚化の道を辿るばかりのあの国、エロが巷に溢れかえっていても誰も異常と思わないあの国でどこまで... といういつものうんざりがー。
10.31.2024
[film] Black Box Diaries (2024)
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。