10.28.2024

[film] Maria (2024)

10月19日、土曜日の昼、Royal Festival Hallで見ました。LFFのガラが行われる一番大きい会場で、その翌日の再放送 - ゲストなし- を当日券で取る、というやつで。

Pablo Larraínが”Jackie” (2016) - “Spencer” (2021)に続く女性評伝ドラマ3部作 - “Lady with Heels”の最後として取りあげるMaria Callasの評伝。脚本は”Spencer”に続いてSteven Knight。音楽はJonny GreenwoodやMica Levi - というわけにはいかないよね- Maria Callasの歌うオペラのスタンダードがたっぷり。撮影はEdward Lachman。モノクロとカラーを切り替えながら、現実と舞台世界を繋ぎながらすばらしい世界を作り出している。 今年のヴェネツィアでプレミアされた。

1977年9月16日、パリで暮らすMaria Callas (Angelina Jolie)のアパートのリビングの片隅に担架があって、グランドピアノの影に誰か倒れているらしく人がざわざわしているのを遠くから固定で捉えた映像のあと、彼女がそうなるまでの最期の1週間を追っていく。

既にいろんな薬で心身ぼろぼろで医者の言うことも聞かなくて、食事を作ってくれる家政婦のBruna (Alba Rohrwacher)や執事のFerruccio (Pierfrancesco Favino)の相手をしながら – まるで”Maleficent” (2014)のように傲慢に振舞いつつも実際には彼らくらいしか構ってくれないような – 舞台衣装を燃やしたり、全キャリアを振り返るインタビューをしたいと言ってきた若い記者Mandrax(Kodi Smit-McPhee)を連れてパリを練り歩いたり、その途中の小さなステージがあるホールで、ピアノ伴奏をバックに歌ってみる – 結局決定的に声が出ないことを確認したりしている。

先のない絶望のなかで浮かんでくる過去の栄光や想い出に浸って、そこでの栄華が彼女を更に絶望の底へと突き落とす、その循環 - 出口のない悲劇が全盛期の彼女のオペラと重ねられていくのだが、そんなに悲壮なトーンにはなっていなくて、この一週間で幼い頃からのすべてを呼び覚まして振り返って覚悟を決め、盛大に自分を送り出そうとしているかのような。その記憶と現実の窓を切り替えて、それぞれの窓から見つめる生と、そのときに湧いてくる切なさは“Carol” (2015)の色彩 – と空間表現にあったやつかも。

いろんな方向に引き裂かれてて、それでもひとつの生を手繰りよせて抱きしめようとするAngelina Jolieのすばらしさ。 オスカーの候補にはなるよね。

ロマンスのように語られるOnassis (Haluk Bilginer)との件も、JFKも(Jackieは出てこない)大した重みはなくて、寄ってきたただの金持ち、政治家、みたいな。

たぶんオペラを全く知らない人 - 自分もそんなには知らない - が見ても、オペラの息を呑むすばらしさ、彼女がなぜその世界に向かっていったのかがわかるようなふうになっている。生を彩る音楽で、声がでなくなったら、死ぬしかないものなのか、とか。

あと、会場がコンサートをやるホールでもあるせいか、音がすばらしくよくて気持ちよいったらなくて。


That Christmas (2024)

10月19日の午後、↑に続けてRoyal Festival Hallで見ました。チケットがついでに取れたから、くらい。 気分だけでも幸せがほしい。

会場に入る前に映画にも出てくる“Officially NICE”のワッペンバッジを貰って、会場に入ると厚紙の大判ポスターが各椅子に1枚1枚立てかけてある – けど席に向かう時にみんな蹴散らすので散らかり放題で、やはり儲かっている会社 → Netflix はちがうな、って。

英国産の良質なアニメを作るべく立ちあげられたLocksmith Animationの新作で、監督は“How to Train Your Dragon”のキャラクター制作に関わっていたSimon Ottoで、これが初監督作。 脚本には”Love Actually” (2003)のRichard Curtisが関わっている。 この回がワールドプレミアだそうで、上映前の挨拶には監督、Richard Curtisの他に、Fiona Shawさんなども並んだ。

英国のサフォーク州の海沿い、小さな灯台のある町に、悪天候のなか灯台守のBill (Bill Nighy)の光に導かれてサンタ (Brian Cox - ナレーションも彼)とトナカイがひいこらどうにか飛んできて、プレゼントを配り始めようとするのだが、ほんとに俺ら必要とされているのかな… ? って町を見渡してみると… というオムニバスドラマ。

両親が離婚してここに越してきたばかりで、NHSのナースをしているママは緊急要請ばかりでほとんど家にいないDannyとか、彼が恋をする双子姉妹のうちのおとなしい方の子とか、大家族でなにかと騒がしい一家とか、周囲からものすごく恐れられている独り身の女性教師Ms. Trapper(Fiona Shaw)とか、大雪大嵐ですべてがなぎ倒されて凍りついてしまった町で、孤独に恋や迷いや救いが渦を巻くクリスマスにどんな奇跡が起こるのか? もちろんみんなそれなりの事情を抱えて諦めたりうなだれたりしていて、じゃあクリスマス映画でも見るか、って”Love Actually”を出す(実際にあのシーンが流れる)と全員からぶーって言われたりして、そんなでもー。

泣けるところもちょこちょこあって、Ms. Trapperの事情とか、泣いている人も結構いた。

足下の”This Christmas”ではなく、人の幸せなんてさー になりがちでどっちに転ぶんだ? って半信半疑の”That Christmas”を少し高いところからだんだん高度を落としていって自分のもの(actually!) としてキャッチするまでのお伽噺。

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