9月25日、水曜日の晩、BFI Southbankで見ました。 上映後にDemi MooreさまとのQ&Aつき。
チケットはぜんぜん取れない状態で諦めていたら、2時間くらい前にひょっこり釣れた。
MUBIとは思えない原色の派手さカラフルさで、宣伝もいっぱい打っていて、興収もMUBIにとってこれまでの最高を記録している、と。
作・監督はフランスのCoralie Fargeat。 US, UK, フランスの共同制作で、カンヌで脚本賞を受賞している。へー、と思ったが撮影はすべてフランスで行われたのだそう。
B級ボディホラーとして、よく考えられていてなかなかおもしろい。2時間20分はちょっと長いけど。
冒頭、パステル系の青緑の上に生卵がのっていて、その黄身の部分に怪しい原色の液体を注射すると、黄身がもそもそ動いて新しいのがむにょ、って分裂して外に飛びだす。これだけで気持ち悪い、ってなったひとは先に進まない方がよいかも。
Elisabeth Sparkle (Demi Moore)は歩道の石盤に名前が刻まれているくらいの女優で、自分の名前のついたTVのワークアウトショーをずっとやってきたが50歳になったところでやらしいエグゼクティブ(Dennis Quaid)が契約終了を話しているのを聞いて、その後にあっさりもう終わり、って告げられてがーん、となり、帰りの運転中、剥がされていく自分のポスターに気をとられたところで事故にあって病院で気がついて、無傷でよかったー、って思っているとぴちぴちの顔をした若い看護師から怪しげなUSBを渡される。
放心状態でタワーマンションの上の自宅に戻って、USBを再生してみるとそれは”Better Version of Yourself”になれるという”The Substance”というセラム一式を使った施術への誘いで、使い方は面倒そうだったが、どうせ未来はないし、と思いきって申し込んでみると、住所と番号入りのカードキーだけが送られてきて、その住所に行ってロッカーを開けてキット一式を手に入れる。
どうやってElisabethの別バージョンができるのかは見てもらうしかないのだが、みんなふつうに自分で自分に注射したり、チューブで繋いだり、縫合したりできるものなの? そういうの無理な人だとこれできないよね。
とにかく、Elisabethのbetter versionとして誕生したSue (Margaret Qualley)は、かつてのElisabethが持っていたもの、いまのElisabethが望んでいるものすべてを完璧のきらきらで備えていて、Elisabeth Sparkleの”Next”を探していたプロダクション側もすぐに飛びついてきて、Elisabethの復讐がはじまる… という具合に簡単には運ばない。
ElisabethとSueの身体は、同時に稼働させることはできず、7日間おきに互いのボディを”Switch”しなければならない。この規約のような決まりを破ると大変なことになるし、ふたりはあくまで「ひとり」であることを忘れるな、と何度も念を押される - もののElisabethからは取り残される、閉じ込められていく不満と不安が、Sueからはこの老いぼれ(→でも自分)に縛られてしまう不満と怒りが溜まっていって…
ミソジニーにルッキズム、「若さ」に対する異様な、盲目的な信奉、我々がパブリックで日々散々目にする醜悪な(個人差あります)あれこれを背景に、ElisabethとSueはその両極を体現するキャラクターとして急速に変容していって、でも分裂・併存は断じて許されないのだ、という不条理が彼女たちを串刺しにして、その結果はほとんど楳図かずおの漫画のようになってしまう – これがばりばりデジタルの画面上で展開されてやらしいじじい共に放射されていくおもしろさ、というか。全体としては監督の怒りがドライブしていて、そこは最後までコントロールされていてぶれないのがすばらしい。
ここで”Better version”という時の”Better”って、あくまで他人からの見た目の絶対基準としての若くてきれい - でいいな、っていうだけのもので、性格がよくなるわけでも頭がよくなるわけでも性別が変わるわけでも肌の色が変わるわけでもない。そのあたりはよく考えてあるなー、とか。
上映後のトークでは、この役を引き受けた経緯や役作りについての質問が多かったのだが、普段自分が考えていることにも繋がっていたし監督の考え方に共感できたので、と割とあっさり。Sue役のMargaret Qualleyについては、彼女が子供の頃から知っていたのよ、80年代にお母さんと少し共演したことがあってー、とか言うので見てみたらお母さんはAndie MacDowellなのね! (そして共演したというのは”St. Elmo's Fire” (1985)か….)
10.04.2024
[film] The Substance (2024)
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