10日、土曜日の午後、Curzon SOHO - 映画館で見ました。
Edgar Wrightさんが最近、ロンドンのCurzon SOHOの入り口とか誰もいない客席とかトイレの壁紙とか、もう閉じてしまったPicturehouse Centralの写真とかをTwitterにポストしていて、おこがましいけどああ同志だわ、って思って、その彼がこれを絶賛していたので見る。あとThe Final GirlsのAnna Bogutskayaさんもほめていたので。ホラーは怖いので見ないのだけど、これは見たほうがいいらしい。
昨年のLFFでも上映されていた英国産ホラーで、作・監督はRose Glass(かっこいい名前)さんでこれが長編初監督作となる。英国での配給はStudio Canalで、米国での配給はA24。オープニングの週末の興行成績はUK4位だって。
まず、タイトルが黒字白抜きでものすごくでっかく出るのでそれだけでなんか怖い。
英国の北東の海辺の町スカボローに契約看護師のMaud (Morfydd Clark)がいて、素っ気ないひとり部屋で信仰にすべてを捧げる質素な暮らしをしていて、彼女の次の患者は丘の上に立つお屋敷にひとりで暮らすAmanda Köhl (Jennifer Ehle)で、車椅子の彼女はもうそう長くはなくて、Maudはそこに住みこみで末期のケア - 食事を作り食べさせ、投薬し注射し、マッサージしたり入浴させたり – をしていくことになる。
モダンダンスのダンサーでコレオグラファーだったAmandaはやってくる死のことをあっさり受けとめていて、だからタバコも酒もやるし、享楽的な友人たちを呼びこんで遅くまで騒いだりしていて、Maudは神のご加護と自分の献身が足らないからだわ、って懸命に彼女のためにお祈りしてケアをして、そういう想いが通じたのか悪いと思っているのか、AmandaはMaudの前では静かにされるがままで、柔らかい笑顔と感謝と、メッセージを加えたWilliam Blakeの画集を贈ってきたりする。
でもその状態もAmandaの友人がやってくると簡単にひっくり返されて、そうやって強引に開かれたパーティの場でぶちきれたMaudはクビになってしまう。ひとり部屋に籠ったり気晴らしに町に出て遊んでみても自責の念とAmandaへの想いが募るばかりでそのうち幻覚のようなものを見たり瘡蓋ばりばり剥がしたり身体がおかしくなったりしてくる – 気がするだけなのか本当なのか、まだまだ修行が足らないというのか。
神への想い、信仰が極限まで行った時、それは(それに応えて神は?)その本人の身体や心にどんなことをしでかすのか、そして他者には何をしようとするのか、それをキリスト教/キリスト者の世界観のなかではなく、もう少し広い情念と受難の相克のなかで暴走させてみると、例えばこんなふうになる。神でも悪魔でもやろうと思えばヒトには試練の名の元でどんなことだってできてしまうはずなので、それをどこまで表現として神々しいもの(→奇跡)にするか、エクストリームなぐさぐさに持っていくか、程度問題なのだろうが、ここでは孤独なMaudとより高いところでダンスをしていたAmanda - 顔立ちがちょっと似ている - の間で起こりうるケース =「ホラー」としてとても納得できるかんじ - なのでものすごくわかって、わかっているのに床面にずり落ちていくのが怖い。
過去の映画のなかではやはり”Persona” (1966)だろうか。あの映画で起こり得たかもしれない転移や変異のどこかに虫(バグ)が混入して融和や昇華のシナリオが破綻するとこんな世界がやってくる。悪魔が降りてきたわけでも霊的ななんかでもなさそうで、信仰のサイコドラマの、ひょっとしたら隣の部屋で実際に起こっていてもおかしくない痛さと生々しさがたまんないし、聖Maudにとってこれは崇高な愛のドラマ以外のなにものでもない、ということ。そう、怖がるようなことではないのよ、って..
例えば”Midsommar” (2019)の怖さと比べたらこっちの方が断然。文化人類学と神学の距離の違い、というか。ロケーションとして英国の海辺の町って – こないだ見た”Make Up” (2019)もそうだったけど、やっぱし怖いかも。
彼女の次作の音楽はTrent Reznor & Atticus Ross組にお願いしたい。パーティの時にバックで聞こえてくるのはESGの”You're No Good”とか、Gang of Fourの”At Home He's A Tourist”とか、The Jesus Lizardとか、よい趣味なの。
Sight & Sound Magazineの最新号はこの作品がメインのホラー特集で、なんでこんな寒くて暗くて雨ばかりの季節にそんなのやりたがるのかしら。
10.12.2020
[film] Saint Maud (2019)
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