10.14.2020

[film] Aggie (2020)

12日、月曜日の晩、Film ForumのVirtualで見ました。

アメリカのアートコレクターで篤志家のAgnes Gund – “Aggie”のドキュメンタリー。監督は彼女の娘のCatherine Gundさんで、家族ならではのほんわかしたやりとりも描かれていて、それはこの映画に関してはよい方向に作用しているような。

彼女は1991年から2002年迄MoMAの総裁(President)をやって、NY市の学校の子供達へのアート教育を推進するプロジェクト”Studio in a School”をしたり、有名なところでは自分のコレクションのRoy Lichtensteinの“Masterpiece”(←タイトル)を$165ミリオンで売って、”Art for Justice Fund” - 正当な刑事裁判や更生プログラム導入のための –を立ち上げたり、映画関係だと”Pink Flamingos” (1972)をMoMAのコレクションに加えたのは彼女だったり。

わたしがアメリカに行って最初に見た展覧会はMoMAの”Henri Matisse: A Retrospective” (1992-1993)で、あれは今思いだしても空前絶後のとんでもないやつだったが、この辺りを境に、90年代中~後半のMoMAは従来のモダン・クラシックス路線から結構エッジ―で辺境の見たこともない変てこなやつらを積極的に紹介するようになっていった気がする。その背後にはYoung British Artistsの台頭とかいろんな事情があったのかもしれないが、そういったシーンの裏にいたのが彼女でした、と。

クリーブランドの銀行家の、アートとは全く縁のないごく普通の家庭で育った彼女がなんで? という生い立ちの部分と、先のLichtensteinとかRauschenbergとかRothkoといったアーティストとの交流と彼らの作品を集めていく話、そしてLouise BourgeoisやMarina Abramovićといった女性アーティストとの話や彼らのコメントを車に乗った母と娘の会話が繋いでいく。

とりとめないと言えばそうかも、だし、彼女のどこになにがどう引っかかって、ばかでかい(見るひとが見たら)ゴミと紙一重のようななんかの塊だの堆積だのをアートだと思って買ったり集めたりしてきたのか、その思惑とか謎は明らかにされないし、その手つきが結果的に招いたアート市場のバカバカしい高騰についてどう考えているのか等、もやもやするとこともあるのだが、そこは掘ってもわかんないか。

ただ、上映後におまけで付いていた監督とAggieへのインタビューも含めて見たときに、改めてアートは社会にとって何でありうるのか - 昨今の学問は、人文は、アートは何の役に立つのか – っていう、どっかの国で巻き起こっているしょうもない議論(ほんとにやだ。あの連中ぜんぶ肥溜めに漬けこんで地底人の餌にしてやりたい)の行方とかその考え方についてはきちんと整理されている気がした。 

得体のしれない、見たこともないような何かに遭遇した時に感じる戸惑いとか疑念とか、これはなんだろ?  なんでこんな色と形なんだろ? と考えたり話を聞いたり想像したりする力は共感(empathy)する力に繋がっていて、それが”Justice”について考える際にはぜったいに必要になるのだ、と。そんな単純なパスではないだろ(悪についても同様のことが言えないだろうか?)とは思いつつも、これってひとつの解にはなっているのかな、って。 見たくない考えたくないそんなの時間のムダ、みたいな連中に共通した物言いとか、ひとめ見ただけの入り口で拒絶する返し方とか、そうとしか思えないもん。「反知性主義」なんて大層なものでもないの、ただ幼児がイヤイヤしてるか卑しい卑怯者がいじめたくていじめているだけなの。(過去散々あったので地獄に堕ちろ、よりもっとひどいことを頭のなかで叫んだり思ったりしている)

でも、本屋がなくなり図書館がなくなり映画館はアニメばかりで美術館は年寄りに占拠され劇場もライブハウスも閉鎖、という今の状態は非常に相当にやばい、と深刻に思っていて、だからAggieみたいな人がいるだけでアメリカは羨ましい。なんでいま、Gerhard Richterに30億円つぎこんで喜んでいるのか、そっちじゃないだろうに。

おまけのインタビュー映像のトークではBLMが盛りあがって大統領選を前にした今、出るべくして出たわね、ってインタビュアーの女性は語っていたが、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。Aggie本人はふふん、て笑っているだけで、あまり語らず、それってソーシャルなあれこれを操る詐欺師かアーティストの謎めいた微笑みにしか見えなくて、でも彼女になら騙されてもいいや、って。

孫たちとのやりとりも素敵で、あんなおばあちゃんがいたらなー。

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